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地図と装甲
浜辺から海を眺めると、ずっと沖に強襲揚陸艦が水没し、尖塔のように傾きながらそそり立っている。エックス字型のバリケードがそこかしこに砂地へ並べられ、煉瓦のような爆発反応装甲を装備した戦車の残骸が点在している。
有馬小夜はこの光景に息を飲んでいた。ガイガー・カウンターは微量の放射線を検知して鳴っている。
「どこなの、ここ?」
そう小夜は「声」に尋ねた。
意識しているのかそうではないのか、応答がない。
陸側へ目をやっても似たような光景だった。建造物の混擬土はどこも崩れ落ち、小夜の周囲は皆、地平線が見えるほど破壊し尽されていた。スマートフォンだったはずの携帯電話も、さっきまで人生最後の曲として流していたシューベルトの歌曲集は止まっており、おまけに画面が大きいタブレットに変わり、さらにはソーラー・パネルまでついている。
小夜がよく見ると、混擬土やアスファルトの散らばるなかに日本語の看板や風に吹かれる書類などがいくつも見つかった。
もうしわけない、と端末から「声」が反応した。
「気づいての通り、ここは日本。だけど、核ミサイルを打ち込まれて東京湾のかたちが大きく変化してしまったんだ。東京、神奈川、千葉とかなりの範囲が水没している」
これは戦争が起きた未来? と小夜がまた尋ねると「声」はそう、と答える。
「さっきから何年経った日本なの?」
「それを表現するのは難しい」
どういうこと? 小夜はガイガー・カウンターの音に怯えながら「声」に訊く。
「さすがに僕が小夜とコンタクトをとった直後ではないんだけど……あらゆる世界や時間の分岐を追ってみても、この戦争は回避できなかったんだ」
「なら、わたしはなんでここまで来たの?」
「まずは、そこにある食料や端末を取って……放射線に汚染されていない地域へとにかく向かおう。攻撃目標に近いルートで」
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