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アーキタイプ
フロイトの高弟、カール・グスタフ・ユングは夢に出現する、あるいは無意識から意識へなんらかの意図をもった特定のパターンを元 型と名づけた。
それは意識にとって人物や事物というかたちをとる。
たとえば有馬小夜にとって、女性である彼女へ無意識、あるいは集合的無意識が理性的になにかを伝えたい場合に人物でいえば男性像が現れる。この男性像をアニムスと呼ぶ。
また男性像ではあるものの年老いた智慧ある男性の元型は老 賢 者と呼ばれる。
いずれにしても集合的無意識や無意識から出現する像、イメージである。
神殺しをやってのけたロディに続き、やはりアメリカの精神分析医ベンが地獄や辺土にひしめいている、もう収容人数を超えた罪人どもの魂を消滅させる暴挙にでた。
神が死んだ以上、上級の天使たちだけでは救われない魂や天国へあと少しの魂を抹殺、処理するのは自分の責務である、そうベンは強調した。
「小夜、実の母とはうまく関係を結べていたのか」
小夜はタブレットに映る地図に沿って、小さな港からずっと歩いている。
「べつに。よくも悪くもなかった」
「リストカットはなぜ」
「わからない……リストカットという手段があるから……目的はたぶん存在しない」
小夜は──もうずいぶん昔のことのように思い出す──バスタブのなかでのリストカットで、傷口からあふれる血がガーベラの花になってしまうことを。
「わたしが『存在』する、ということに苛立っているのかもしれない」
そう小夜は呟いた。
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