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崩壊概論
地上にはどれだけの人間が生きているのか、有馬小夜にはわかりかねた。
神、罪人たちの魂、それらが死に、大規模な戦争が起こり、荒廃した地上……。生き残った人々が少ないから、もしくはもともと無意識や集合的無意識が先細りになって機能不全を起こしたのか……鶏が先か卵が先か、という安っぽい問いへ雪崩込んでゆく。
というより「声」はある意味、人類にとって最高の財産である無意識や集合的無意識を抹殺しようとしているのだ。
今、地上に残っている人間たちには、もう無意識や集合的無意識はほとんど残っていない。精神的にはもう意識から零れ落ちた残滓だけで生きているようなものだった。
そんななか、まだ存在を主張する者は口承、口伝やタブレットへの入力で、性的不能の男性が必死に男根をこすり続けるような執念で物語を紡ぎ続けていた。
それはただ挨拶をするように、あるいは印鑑をどうでもよい書類に押印するのと似てい、もはや人類は物語すら満足に紡げないようになっていた。
序破急。起承転結。この流れに適当な人物を配置し、世界観で包装し、すべての要素はただこの公式に代入したアウトプットの絞り滓のような……。
それでもまだ無意識や集合的無意識が腐食しつつも存在するのでなんとか人間は生きていけた。
「そう、それが小夜をこの疑似神話の世界へ呼んだ理由」
「どういうこと」
──今、地球上にはそれなりの元 型がまだ残っている。しかし、太 母も老 賢 者も道 化もアニマもアニムスも、自分の嫌な側面を指摘してやまない影も、もう必要ないんだ。だから、世界を瑞々しく憎悪する小夜の力が欲しかった。
世界中でこの疑似神話の地上を一掃しようと動いている。
あちこちで、元 型を殺す企みが進行中だった。
「わたしはそのこの先にいる太 母だけを殺せばいいの?」
そう、と「声」が答えた。
「武器はカッターナイフでもAK-47アサルトライフルでもかまわない……というより、太 母のほうでも待ちわびているはずだ、自分を下落した「生」、地上的な「生」という傷みから解放してくれる暗殺者の来訪を」
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