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グレートマザー殺し
太 母の居場所はすぐにわかった。歩哨を斃して視えるようになったのか、月の光を浴びて、混擬土の破片を上空へ細く細く伸ばした尖塔がそそり立っていた。
もちろん端末にも激しい律動で光点が輝いている。有馬小夜はAK-47アサルトライフルを両手で把持しながら太 母のいる尖塔へ足を踏み入れた。もうオルファのカッターナイフは、謎の「声」の誘いのときのリストカット、そしてさきほどの歩哨の喉を切ってしまって、刃がなまくらになってしまっている。
暗い尖塔の狭い部屋のなかに、人形のようなロリィタ服姿の少女が椅子に座っており、小夜の訪れを待ちわびていたようだ。
顔は影に覆われてよく見えない。
少女は立って、一歩を踏み出した。
小夜はAK-47アサルトライフルをとっさに構えた。
──文房具のカッターで切りつけられるわけじゃあ、ないのね。銃殺かあ。
と少女が他人事のようにつぶやくとようやく顔が見えた……中学生、それも一年生ぐらいのまだ稚さだというのに権高な、いままで恣に生きてきた眼差しに小夜はたじろぐ。
──この地上には、普通の人間がまだどのぐらい生存しているのかなあ。
小夜はAK-47アサルトライフルの安全装置を外した。いざとなれば躊躇せずに弾倉の三十発の弾薬を撃てるように。
──あたしは地球すべての人間たちの大いなる母親だった。子供達を愛し、いざとなれば迦利としてなによりも恐怖と暴力で、秩序を破ろうとした人道に悖る連中の首を斬り飛ばした。地球を包み込む愛情と残虐の元 型、太 母だった……なぜ、このような姿になったか不思議なのでしょう……それはもう人間がほとんどいないんですもの。
そう言うと太 母は微笑んだ。
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