猫になった女子高生の話

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 二学期に入り体育祭が終わると、高校三年の菜摘(なつみ)たちは受験一色に染まった。 「ああ、もう大学なんかどうでもよくなってきたよぉ」  放課後の課外学習を終え、家路に向かいながら菜摘は同級生の結衣(ゆい)にこれ見よがしのため息をついてみせる。ため息の原因は父親だ。大学は国公立じゃないと行かせないとつべこべうるさい。 「なに、どうしたの?」  結衣がさもびっくりしたように菜摘を見る。 「聞いてくれる」 「聞いてほしいんでしょ。いってみ」 「うちのお父さんがまじでウザいの。昨日も急に部屋に入ってきて、なにかと思ったら、スマホ触る時間があったら勉強しろ。とにかくいまは勉強のことだけ考えろ。お父さんの時代はな、ってここから語り出して。それが長いかってもんじゃないの。それで言いたいこと言いたいだけ言って部屋から出ていってさ。あんな人、いなくなったらいいのに、って思うわけ。ねえ、どう思う?」  菜摘は昨夜あった父とのいざこざをぶちまける。 「それきついね。だって、菜摘は頭より筋肉のほう使って生きてきたもんね」  結衣の返しはまったく求めるものじゃない。むしろ菜摘の苛立ちに拍車をかける。 「あのね、筋肉はちょっと言いすぎでしょ。私だって少しは頭使ってました。とにかく、私の不満は爆発してるんだから」  結衣とは小学校のときからのつき合いだ。同じスポ少のバレー部で汗を流した仲で、菜摘たちはいつも互いに愚痴を吐き合ってはフォローしあっている。ちなみに結衣は親ではなく彼氏の愚痴が多い。菜摘には彼氏がいないので半分もわかってやれないけど。 「ごめん。じゃ、またね。菜摘」  菜摘の愚痴を遮るように結衣が手を振った。 「え、どこに行くの?」  いつもならもう少し先まで一緒に歩いて帰るのに。不思議に思った。 「ちょっと、ね」 「あ、そういうことね。はいはい」  彼氏と会うんだ。結衣のはにかむ顔を見て、すぐに察した。  結衣と交差点で別れ、黙々と民家が並ぶ通りを歩く。父が定年後も返済しないといけないマイホームを購入したばかりに大学は国公立じゃないといけないと言われている。アパート暮らしから新築の家に変わったときは嬉しかったのに。いまや菜摘にとって呪われた屋敷だ。  歩いていると頭の中にいろんなことが浮かんでくる。べつに考えたいわけじゃないけど、それは雨上がりの靄のように自然と頭の中を漂いはじめる。
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