猫になった女子高生の話

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 すこし前までは部活のバレーのことだった。長年やっている経験からキャプテンに選ばれた。同級生にはスポ少時代から一緒だった結衣をはじめ他にもメンバーに恵まれた。だけど後輩に自分たちとは別のスポ少出身の子らが入り、チームはぎくしゃくしてきた。それをうまくまとめようと悩んでいた。両親も菜摘が部活をしていたときは、キャプテンとしてチームをまとめろとか、県大会でベスト4を目指して頑張れだのとバレーのことばかり言っていた。  六月の高校総体が終わり、引退したとたん、進路はどうする? 行ける国公立はあるのか? とそればかり言いはじめた。  がらりと変わった生活と価値観に菜摘の不満は募る。  バレーを頑張れ、そればかり言っていた口で今度は勉強を頑張れ、とやかましく言ってくる。同じ口からどうしてそう都合よく違うことを言えるのか。  ムカつく。だから勉強をしたくなくなるのよ。考えれば考えるほどイライラしてくる。とそのとき、ぽつりと雨粒が頬をかすった。  見上げると、腹の底を黒くした、悪そうな雲の塊が流れてくる。雲から逃げるように小走りで家に向かう。  民家の軒や生垣にぱらぱらと音をたてて雨粒が落ちた。間に合いそうにない。雨音の間隔は短くなっていき、あっというまに大粒の雨に変わった。  傘を持ってなかった。肩に提げた通学カバンを手繰り寄せ、バレーで鍛えた脚で走った。行く手を遮るように横殴りの風も加わる。  民家に挟まれた洋品店の軒下に入り、雨宿りさせてもらうことにした。洋品店はずいぶん前に店を閉めていて、そこだけ闇を抱えるようにひっそり佇んでいる。  あたりを見回してみる。もともと人通りが少ない路地だけに誰もいない。  ボーっと路面がぬれるのを見ながら、ふと思い出したのは何年か前、この洋品店の前で高校生がわき見運転の車に撥ねられたという話だ。痛かっただろう。いたたまれない気持ちになって菜摘は小さく息を吐いた。その瞬間、ふくらはぎにざらざらしたものが触った。  ひゃ。  足元に目をやると、三毛猫が菜摘を見上げていた。洋品店の前でよく見かける猫だ。  なんだ、猫か。  猫は気楽でいいよね。雨を弾く毛先をそっと撫でた。 「そうよ。猫の世界は楽しいよ」  聞いたことのない女の子の声が、菜摘の頭に流れた。
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