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どれぐらい待っただろうか。家の中で人の動く気配はない。
いったいどういうこと?
菜摘は玄関の前で体を丸めた。こんな姿のままなんてぜったいにいやだ。
微かな音がして、ゆっくりと扉を開いた。
ぎょっとした。玄関の靴脱ぎのところに彼女が制服を着て立っていた。
「なにしてるの? てか、なんで制服なんか着てるの?」
「返すつもりだった。でも、最後にもう一度だけ制服を着てみて、今日あったことを思い出すうちに気がついたの。やっぱり人間の世界は素晴らしいって」
まさか迷いが生じてる? 菜摘の中で急速に不安が広がっていく。
「早く私の体を返して。約束だったよね」
「やっぱそうなるよね。でもね、あなたのお父さんとお母さんは笑ってたよ。今日の菜摘は素直でいい子だねってよろこんでくれたよ」
それは胸を抉られるような言葉だった。菜摘はここ最近、親にどんな顔をしていたのだろうか。思いを巡らせる。
うざい。話したくない。関わりたくない。菜摘はそう思っていた。だけど、今日、猫になって、はじめて外の世界を冷静に見て、毎日をどう生きるべきか。いまの菜摘にならわかる。
「あなたは生まれたときから猫。それは仕方がないことなのよ」
「そうかもしれない。でも、私、やっぱりこのままがいい。あなたこそ猫として生きてよ」
いやだ。菜摘が精一杯の声を上げる。すると彼女は外に出た。菜摘は元の姿に戻ろうとすり寄る。
頭上に輝く月にふたりは照らされた。菜摘は彼女の中へ流れていこうとする。でも、流れない。
「無理よ。お互いが許さない限り、代わることはできないの」
猫だった彼女が菜摘の口から信じられないことを告げる。
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