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帝国大魔導学院の最上位特待学級。その教室の中心には、いつだって誰も近付かないふたりが座っている。
「あーもうつまんないわ。つまんな死ぬ」
「あらまあ、無神経に手足を付けただけのような貴女でも憂鬱そうな顔ができますのね。良いものを見せていただきましたわ」
妙に衣類だけが小綺麗なあまり上品そうでない黒髪の彼女が机に突っ伏したまま呟くと、その様子を見た隣のなにもかも上品な金髪美女が扇子で口元を隠しながら笑った。
「はいはいアンタらのそういうとこよ、アタシがつまんないの」
「そういうところ、とはどういうところでしょう。わたくし全然わかりませんわあ」
白々しく返す美女に溜息を吐く彼女。
「ひとを馬鹿にしたり不始末を陰で囁いたりしてしか笑えないとこ」
「はあ……んー、そうは申されましても、世の中でそれより他に面白いことがございまして?」
酷い言い草だが美女も一概に悪意ばかりで言っているわけではない。彼女の言わんとするところが本当に理解できないのだ。
彼女はしばし悩んでからとつとつと話し出す。
「例えばさあ、昨日第三王子とお茶会があったんだけど」
「ちょっと初耳でごさいましてよ?」
非難がましく目を細めた美女を片手で「まあまあ」と制する。
「そんときメイドちゃんが取り分けたショコラケーキを王子の白いお召し物のひざにべちゃっと落っことしちゃってね」
「あらまあ、それは大変でございましたわね」
そのメイドは仕事をクビになったか、許されても相当な折檻を受けたに違いない。
しかし、嫌いな者であればまだしも見ず知らずのメイドが粗相をしたと聞いたところであまり感慨が湧くものでもない。
「その子は固まってたんだけど、ほら、この世界ってそういうの厳しいじゃん? アタシのほうが焦っちゃってさあ。王子や周りより先に慌ててひざを拭こうと立ち上がったわけよ」
「差し出がましいようですけれども、ここはそういう場所ではありませんから。軽率な行動は貴女の評価を下げますわよ」
彼女が宮廷魔術士によって召喚された異世界転移者であるのは周知の事実だった。この世界に来て数ヶ月、階級社会にあまり馴染めておらずトラブルを起こしがちであることも。
「はいはいその話は耳にタコの巣ができるくらい聞いたわ。まあそれで飛び出したんだけど昨日は特に裾の長いスカートだったもんだからヒールで踏んずけちゃってさあ」
「はあ」
気の無い返事のようではあったが輝くような美女の瞳は正直だった。続きが気になるのだ。
「王子のおひざに顔面から突っ込んで鼻血ブーよ。もうチョコクリームもへったくれもなかったわね。王子のお召し物のひざはアタシの鼻血で真っ赤っか」
美女は少々ぽかんとしていたけれども、情景を想像してしまったのだろう。背を丸めて無言で肩を震わせ笑いを堪え始める。
「それを見て焦ったのが王子とメイドちゃんよ。同時にアタシに駆け寄ろうとして今度は逆のひざがメイドちゃんの綺麗なお顔に勢いよくぶっ刺さっちゃってもう大惨事。両ひざ他人の血塗れな第三王子と鼻血ダバダバ流してひざまずくアタシにメイドちゃんよ。絵面の悪さったらなかったわ。他のメイドや警護の連中もどうしていいのかわからなくなっちゃって右往左往して大騒ぎ」
身振り手振りを交えつつ「ほんと大変だったんだから」と話す彼女を見ていたら普段口うるさいお付きの騎士や鉄面皮の第三王子があわくっている場面をリアルに想像してしまい、とうとう堪え切れず笑い声をあげてしまった。
「ふ、ふふ……わたくしの、いないところで……そんなことが……ふふふっ」
その様子を見て満足した彼女は話を打ち切って頬杖をつく。
「どおよ。ひとの嫌味や陰口言ってるよりよっぽど面白いっしょ?」
「それはまあ……ふふふ、そうですけれども……ふふっ」
「ま、全部作り話だけどね」
「ふふ……って、ええ!?」
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