おさがり自転車同盟

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 角を曲がると、川沿いにある広い土手道に出る。  曲がる時に軽くブレーキをかけるとキー、と掠れた音がした。  すっかり古びた自転車は、奏太の高校の傍に住んでいるいとこから貰ったものだ。駅から高校までの十分弱使用するだけだから、特に新しい自転車を買おうとは思わず三年間使い続けてきた。  寒い空気に肩を竦め、早く電車乗りてーと思っていると、少し先に特徴的な自転車を漕ぐ女子生徒が目に入る。 「あ!」  反射的に発した声に、嬉しさが混じった。 「松原(まつばら)さーんっ!」  後ろ姿に向かって迷う事なく呼びかけた。  奏太の声が届いたらしく、漕いでいた自転車を止めて振り返る女子生徒。  松原(みどり)とは、高校一年生からの付き合いだ。 「日下部(くさかべ)くん、久しぶりだね!」  翠の表情が笑顔になるのが見えた。 「だなっ」  ペダルを強く踏み込んで翠の方に向かう奏太の頬は勝手に緩んでしまう。 「松原さん、何しに学校来てたの?」  奏太が傍まで来るなり、翠は自転車から降りて「私は、合格報告」と少し首を傾けて嬉しそうに言った。 「あ、まじ!」  奏太も自転車から降りた。いつのまにか、さっきまでの寒さはどこかへ行ってしまったようだった。 「あーっと、A大だっけ?」 「うん! 無事受かったよ」 「さっすが松原さん! おめでとっ」 「ありがとー、日下部くん。ほんと安心したよ……」  二人で土手道を歩き始めた。  ほっとした様子で笑う翠の横顔をみて、奏太も素直に嬉しく思った。 「そーいや宮永(みやなが)ももう推薦で受かってるんだよな!」  思いついたことをそのまま訊いただけだった。だけど「あ、うん!」と言った翠の表情が、笑顔なのに少し曇った気がしてあれ? と違和感を持つ。 ──そういえば、翠がA大学に行くと言う事は、二人は春からは遠距離になってしまうのか。 今更ながら気づいた。A大学は遠い。付き合っている二人のことより、自分自身が翠と離れてしまうことの方にばかり意識が行っていたからだろう。 宮永は翠の彼氏だ。二人は高一の冬頃から付き合っている。  もっとも、翠が遠距離のことで悩んでいるのかは定かではないが。  翠がそのまま「日下部くんは? 何しに来てたの?」と切り替えたため、奏太も平静を装って「俺は部室に忘れ物とりに行ってた。そのあとちょっと部活に顔出したけど」と返した。  
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