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数日間の精密検査を経て、契約書を交わし、自分は正式に、藤谷和時所有のアンドロイドになった。和時は自分のことを主人として登録はしなかった。きっと今のステータス、恋人のままでいることを選んだのだ。
もう、空は回収対象ではなくなった。これで二人は晴れて正々堂々と外を歩けるようになったのだ。
「空、俺達の家に帰ろうか」
「はい」
空は満面の笑みで和時に応えた。
トニーエリクトン社を出ると、西の空に真っ赤な夕焼けが見えた。オレンジのひかりが二人が包む。
「きれいな夕日の色、同じ色だね」
「ありがとう」
和時が隣の空の髪を優しく撫でる。その手は空の頬をかすめた。
「また一緒に夕日を見られるなんてね」
「もう寂しくないかい?」
「うん。和時もいて、身体の中には翼がいる。何も怖いものはない」
「それはよかった」
和時が空の手をつなぐ。
「和時こそ、よかったの? 永遠に止まらない時計」
「ああ、いいんだよ」
「あんなにこだわっていたのに」
「俺も方向転換したんだ」
「というと?」
「空と一緒に時を過ごしていく。君の体内時計が止まる瞬間まで俺はそばにいる」
「止まるって?」
確か自分には寿命コードがないはずでは。
「土井くんが君に寿命コードを復活させてくれた。だから、死ぬのは俺が先か、空が先か、これでわからなくなったよ」
「そうだね」
「どちらかが、最期を迎えるそのときまで一緒にいよう」
和時がぎゅっと強く手を握り、空も同じように握りしめた。
--もう死にたいだなんて思わない。
今は、翼が与えられた命を大切にして、一生懸命に生きなければいけない。自ら命を絶ってはいけない。
永遠の刻は誰もが、必ずしも手に入れたいものではない。終わりがあるから輝けるものもある。
そしてすべては、この空の下にある。きっとこの空は永遠にすべてを見守り続ける。
この空の下で、夜が来て、朝がくる毎日を、愛する人と共に生きる。そのどちらかの最後を見送る日までは。
永遠を空に刻もう。
完
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