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今から随分と大昔のこと。
この地が大洪水に見舞われた。
けれど、それを察知していた人間によって、その地に住むあらゆる動物がつがいで船に乗せられ、難を逃れた。
そうして、その水が引いた頃、彼は生まれた。
雄猫のクロ。
雌猫のミケと双子で生まれた彼は、全身艶やかな毛並みで覆われた黒猫だった。
けれど、彼らの母猫は、彼らを産み落とすと、そのまま日に日に弱っていき、出産から10日後に亡くなってしまった。
彼らを気の毒に思った優しい虎の母さんが、自分の子と一緒に育ててくれたけれど、父猫は母猫によく似たミケしか可愛がらなかった。
そうして、2匹が成長するのと同時に、虎の子も成長する。
やがて、虎の子はクロをいじめて遊ぶようになった。
ミケは、父猫の庇護もあり、虎の子にいじめられることはなかったが、クロは庇ってくれる者が誰もおらず、虎の子から必死で逃げ回ることしか出来なかった。
生まれて3ヶ月が経とうとする頃、クロは、船を降り、虎の元を逃げ出した。
大洪水の水はようやく引いたけれど、船の外は、あらゆる物が流され、広大な荒野が広がるばかり。
当然、いくら探しても、餌となるねずみは、どこにも見当たらない。
お腹を空かせたクロは、仕方なく草や花を食べて空腹を紛らわす。
そうして、草ばかりを食べ続けてひと月がたったころ、クロは、ようやく真っ白なハツカネズミを見つけた。
しかも、けがをしているのか、少し足を引きずっている。
クロは駆け出した。
生まれて初めて自分で獲物を捕まえようと必死で走った。
けれど、それに気づいたハツカネズミも駆け出した。
足を引きずりながら、懸命に逃げるハツカネズミをクロは必死で追いかけた。
そして、あの大洪水でも流されなかった大木の根元にある小さなうろにハツカネズミは逃げ込んだ。
クロはそのうろの中でハツカネズミを捕まえようと前足を突っ込む。
けれど、うろの中は意外と奥が深いようで、ハツカネズミには届かない。
諦めたクロは、そのうろの前に座り込んだ。
待っていれば出てくると思ったけれど、ハツカネズミは一向に出てくる気配がない。
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