ねことねずみが出会ったとき

5/9
前へ
/9ページ
次へ
すると、うろの中から微かな声が聞こえた。 「私……」 クロは、驚いて顔を上げる。 「何?」 返事が返ってきたことが嬉しくて尋ね返す。 クロが虎のところを飛び出してから、自分以外の声を聞いたのは初めてだった。 「私、兄弟たちから食べられそうになったの」 「えっ!?」 クロは耳を疑った。 けんかやいじめなら分かる。 でも、兄弟に食べられるって…… 「私たちねずみは、早い時期から、ねずみ算式にすごい勢いで増えていったの。だから、船には居られなくて、水が引いてすぐに家族みんなで船を降りたの」 ねずみは、子供が生まれるのが早く、2倍、4倍とどんどん増えていく。 「でも、船を降りても、水が引いたばかりの荒野には食べる物なんてほとんどなかった。そんな食糧難の時に私は生まれたの」 今だって、ここには食べる物なんてほとんどない。 「私の名前はモモ。100番目の子だから、モモ」 100番目! その数の多さに、クロは驚いて言葉を失った。 「私、生まれてすぐに、暴れ回ってた兄さんたちに突き飛ばされて、足を骨折したの。それが、ちゃんとは治らなくて、今でもうまく歩けない」 だから、足を引きずってたのか。 クロは足を引きずりながら必死で逃げてた後ろ姿を思い出した。 「数が増えすぎて食べ物が足りないのに、けがをして動けない私に食べ物を届けるのが嫌になった兄たちは、ある日を境に何も届けてくれなくなったの」 兄弟なのに!? でも、そういえば、ぼくが虎たちにいじめられてる時も、ミケは助けてくれなかった。 まぁ、ミケも逃げるのに必死だったから仕方ないけど。 「仕方なく私が足を引きずりながら食べ物を探しに行くと、兄たちの会話が聞こえてきたの」 会話? なんだろう? クロは首をかしげながら、うろの中のモモが続きを話すのを待った。 「私に食べ物を届けなければ、動けない私はすぐに死んでしまうから、そしたらみんなで食べようって。肉は久しぶりだから、きっとうまいぞって」 ひどい! 兄弟なのに…… 聞きながら、クロは、他人のことなのに涙をこぼした。 痛くも怖くもないのに泣くのは、生まれて初めてだった。 「だから、そのまま逃げてきたの。足は痛いけど、でも、食べられるのは嫌だから」
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加