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すると、うろの中から微かな声が聞こえた。
「私……」
クロは、驚いて顔を上げる。
「何?」
返事が返ってきたことが嬉しくて尋ね返す。
クロが虎のところを飛び出してから、自分以外の声を聞いたのは初めてだった。
「私、兄弟たちから食べられそうになったの」
「えっ!?」
クロは耳を疑った。
けんかやいじめなら分かる。
でも、兄弟に食べられるって……
「私たちねずみは、早い時期から、ねずみ算式にすごい勢いで増えていったの。だから、船には居られなくて、水が引いてすぐに家族みんなで船を降りたの」
ねずみは、子供が生まれるのが早く、2倍、4倍とどんどん増えていく。
「でも、船を降りても、水が引いたばかりの荒野には食べる物なんてほとんどなかった。そんな食糧難の時に私は生まれたの」
今だって、ここには食べる物なんてほとんどない。
「私の名前はモモ。100番目の子だから、モモ」
100番目!
その数の多さに、クロは驚いて言葉を失った。
「私、生まれてすぐに、暴れ回ってた兄さんたちに突き飛ばされて、足を骨折したの。それが、ちゃんとは治らなくて、今でもうまく歩けない」
だから、足を引きずってたのか。
クロは足を引きずりながら必死で逃げてた後ろ姿を思い出した。
「数が増えすぎて食べ物が足りないのに、けがをして動けない私に食べ物を届けるのが嫌になった兄たちは、ある日を境に何も届けてくれなくなったの」
兄弟なのに!?
でも、そういえば、ぼくが虎たちにいじめられてる時も、ミケは助けてくれなかった。
まぁ、ミケも逃げるのに必死だったから仕方ないけど。
「仕方なく私が足を引きずりながら食べ物を探しに行くと、兄たちの会話が聞こえてきたの」
会話?
なんだろう?
クロは首をかしげながら、うろの中のモモが続きを話すのを待った。
「私に食べ物を届けなければ、動けない私はすぐに死んでしまうから、そしたらみんなで食べようって。肉は久しぶりだから、きっとうまいぞって」
ひどい!
兄弟なのに……
聞きながら、クロは、他人のことなのに涙をこぼした。
痛くも怖くもないのに泣くのは、生まれて初めてだった。
「だから、そのまま逃げてきたの。足は痛いけど、でも、食べられるのは嫌だから」
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