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2人は、暑い季節も、枯れ葉の季節も、寒い季節も、共に寄り添いあって、お互いを思いながら過ごした。
そうして、また蓮華の咲く暖かい季節が巡って来た頃、モモはあまり動かなくなった。
「モモ、どうしたの? 最近、元気ないね」
クロは尋ねた。
「あのね、もうすぐお別れなの」
クロは驚いた。
「やだよ。ぼくはモモとずっと一緒にいる」
けれど、モモは首を横に振る。
「無理なの。私はねずみだから、元々、季節が一巡りしたら、命を終えるの。猫とは違うのよ」
えっ?
クロはその場に固まった。
「同じ花を2回見たら、私の命はもう終わるのよ。3回目はないの。猫は何度も同じ花を見られるんでしょ? 私、今度生まれ変わったら、猫になりたいな」
そう言ったモモは甘えるようにクロに寄り添うと、そのまま静かな寝息を立てて眠りについた。
クロはモモを起こさないよう、自分もそのまま静かに眠りにつく。
そうして、朝を迎えた時、モモの寝息は聞こえず、冷たく動かなくなっていた。
あんなに艶やかだった真っ白な毛並みも、どこかくすんで見える。
まばゆい朝日に照らされているのに、1年前にクロが見惚れた輝きは失われていた。
「モモ! モモ!」
クロが何度呼んでも、もう、モモが起きることはない。
「ぼく、今度はねずみに生まれ変わるよ。そうして、モモと一緒に生きて、モモと一緒に死ぬんだ」
クロは、一年ぶりに泣いた。
涙がかれるまで、声を上げて泣いた。
そうして、ようやく涙が止まった時、クロはゆっくりと立ち上がった。
目の前には1輪の綺麗なすみれ。
クロは、そのすみれの根もとに前足で穴を掘ると、モモを優しく咥え、そこに横たえる。
「モモ、またね。きっと、また会おうね」
クロはそう言って、前足で土をかける。
それから、クロは、決してすみれの花だけは食べなかった。
蓮華や仏の座は食べても、すみれだけはモモのような気がして食べられなかった。
モモを護り続けたクロは、すみれも護り続けた。
そうして、10回目の春が訪れた時、辺りは一面すみれ畑になっていた。
そこで、クロは、すみれとなったモモに包まれるようにして静かに眠るように息を引き取った。
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