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ぼくがかつて住んでいた田舎だが、テレビのチャンネルが2つしかない。公共放送と、民放の番組をいくつか統合してバラバラに放送する地方局の2つのみだ。チャンネル数を増やすためにケーブルテレビ局の設置が検討されたのだが、ぼくの田舎のあまりの僻地ぶりにケーブルテレビ局からお断りをされてしまった。地方局は民放の地元のニュースばかりを流すせいで、民放の番組は殆ど流さない。だからぼくは芸能人に関しては本当に疎い。芸能人が出演するバラエティ番組を観たのもこの都会に来て観たものが初めてである。
その番組だが、いい歳したオッサンのお笑いタレントが白ブリーフ一枚で歌ったり踊ったりして道化を演じるものであった。そのシーンでガヤと呼ばれる録音された笑い声が挿入されることから「笑いどころ」なのだろう。ぼくはテレビにおいて白ブリーフは人を笑い者にするためのアイテムであることを知るのであった。
その瞬間から、自分の履いている白ブリーフが呪いの装備にしか思えなくなり、脱衣場の鏡で白ブリーフ一枚の姿を見る度に激しい嫌悪感が襲ってくるようになっていた。
都会の「何でもある」と言う環境はぼくに貯金をさせてくれない。ぼくの意志が弱いし、友達との遊興費は節約出来ないと言えばそれまでの話だが、田舎にはないショッピングモールやゲームセンターがぼくから毎月の小遣いをゴリゴリと削っていく、荒屋の駄菓子屋一軒で数十円単位の買い物しか出来なかった時に比べると信じられない話だ。小遣いの大半を使った後にパンツのことを思い出すのだが、後の祭り「また次の小遣いで買えばいいか」と考えることを毎月繰り返すだけである。このせいで着替えの度に白ブリーフを晒し恥ずかしい思いをする日々が続くのであった。
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