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時は流れ、3月上旬を迎えた。小学校の卒業式が間近となり、軍隊の訓練の如き厳しい卒業式の練習が行われる時期となる。ぼくは卒業式の練習で疲れた体を押してショッピングモールの学生服売り場を訪れていた。4月から入学する中学校の制服の採寸のためである。母も同行するつもりだったのだが、急な仕事が入ったためにぼく一人で行くことになってしまった。
女性店員がぼくの全身に隈なくメジャーをあてていく。身長、体重、総丈、肩幅、胸囲、腰囲、尻囲、ズボン丈、股下…… ありとあらゆる場所の長さや太さが晒されていく。裸にされている訳でもないのに恥ずかしい。
「じゃ、おズボンの裾上げと腰のサイズ合わせるから、上着とおズボン脱いでくれるかなー」
ぼくは上着を脱いだ。詰襟の学生服の下に纏うのはTシャツにカッターシャツの二枚。
「おズボンの腰なんだけど、カッターシャツとTシャツを中に入れた上でベルトで締めるからねー? 今履いてるおズボン脱いでくれるかなー?」
ぼくは戸惑った。女性店員は割と若い。おそらくは新卒で入社して数年と言ったところだろう。田舎に住んでいた時にさっさと都会に出ていった憧れの従姉妹のお姉ちゃんを思わせる。そんな女性店員の前で白ブリーフを晒すのは恥ずかしい。
「あ、あの? 大体で良いですよ? そう、腰は大体60センチぐらいで。裾上げもズボンをそのまま横から合わせて貰えればいいです」
「これじゃあサイズ合いませんよ。尻のサイズも合わせないといけませんし、ズボンの裾を引きずるとすぐに擦れちゃいますよ」
脱がざるを得ないか。ぼくは覚悟を決めて一気にズボンを引きずり下ろした。女性店員の前に白ブリーフが晒された。カッターシャツの前裾よりタマタマを収納した膨らみがチラリと見える。ここで女性店員が「今どきブリーフなんて珍しいですねー」なんて言おうものならその場から逃げ出した上で、川に飛び込んで入水自殺しかねん勢いだ。
しかし、女性店員は眉一つ動かさずにズボンを差し出してきた。
「はい、このズボン履いて下さいねー。シャツインでいいですよー。三年間の成長期も考えて少し大きめにゆったりと仕立てさせていただきますねー」
ああ、杞憂だったか。しかし、女性店員の前で白ブリーフを晒したのは恥ずかしい。ぼくは真っ赤な顔をしながらズボンを履いた。裾は長く、足の甲を覆い隠していた。
「じゃ、裾の方曲げますねー」
このような感じで制服の採寸は終わった。
「では、卒業式の前までには制服の方をお届けさせて頂きますねー」
ぼくの小学校の卒業式において、卒業生は来年度に入学する中学校の制服で参加することになっている。前までは男子も女子もキッズフォーマルなスーツスタイルだったのだが、女子側に袴スタイルが流行って以降はお洒落大戦争と言わんばかりに挙って競って過美な着物を着るようになった。それが貧富の差の露見になると苦情が入り、卒業式は中学校の制服での参加が義務付けられたのだった。
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