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卒業式数日前になり、制服が届けられた。母が写真を撮りたいと言うので採寸の確認も含めて纏ってみることにした。自室で着替えようとした瞬間、母がぼくを呼び止めた。
「あ、そうだ。これ」
母はぼくに小さなビニール袋を差し出してきた。中にはチェック柄の布が綺麗に真四角に折り畳まれたものが数枚入っている。
「はい、トランクス」
「え?」
「もう中学生なんだから、ブリーフも卒業。ずっと、嫌だったんでしょ? ブリーフ」
ぼくはその言葉をもう一年早く聞きたかった。この一年白ブリーフで恥ずかしい思いをしてきたのに、何故に今更なんだ。しかし、これで母を恨むのは筋近いだし、意味がない。
「スースーするなぁ」
ぼくは自室で初めてのトランクスを履いてみた。裾の間と間を風が通りタマタマもチンポコも冷えて寒々しく感じ、小ぶりな白ナマコのような形状から先細りのミョウガのような形状に縮こまる。これに関しては、まだ肌寒い3月の気候の影響もあるだろう。
そのまま歩いてみれば、タマタマもチンポコも左右にプラプラと揺れる。白ブリーフのようにスッポリと納められていては感じられない開放感である。
その感覚が珍しく部屋の中をウロウロと歩いていると、母が部屋に入ってきた。ノックはない。どこの母親も同じなのだろうか。
「何やってるのよ。下パンツでウロウロして」
「あ、いや、その……」
ぼくはしどろもどろとし、塩をかけられたナメクジのようにシュルシュルと小さくなった。
不思議と羞恥心はない。股間のもっこりを晒さないトランクスのゆったりとした形状が羞恥心を消し去ったのだろうか。
「いいからさっさと制服着なさい!」
母が去った後、ぼくは床に投げ捨てられた白ブリーフをゴミ箱に捨てた。
おむつを卒業してから11年ぐらい世話になった白ブリーフであるが、いざ脱ぎ捨てて今日からは二度と履かないと思うと寂しさを覚える。ぼくはゴミ箱の中の白ブリーフに向かって「ありがとう」と謝辞を述べてしまった。
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