「死骸」

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 車道に横たわる猫を見つけたのは、今朝のことだったわ。  冷気を絨毯のように敷いたアスファルトの上に、濁った赤が大きな染みを作っていたの。その染みの中にぽつりと佇んだ白い猫。私が触れてみると、冬の絨毯よりも冷たくなっていた。  すぐに車に轢かれたのだと分かったわ。  私は初めて見たのだけど、車に轢かれた猫というのは世間にとって日常らしく、誰も見向きもしていなかった。きっと落ちている片方の手袋やハンカチみたいなものなのね。  私はまだ大人の半分くらいしか生きていないから知らないことがあるのは当然。だから学校へ行って勉強するのよ。そういうことをちゃんと分かっている偉い子だ、と誰にもバレないように小さく胸を張る。  自惚れもほどほどに、私は時間を忘れて、その死骸をまじまじと見つめていたわ。どれくらいその場にいたかと言うと、危うく遅刻しそうになるくらい。今朝は早起きをすればサンドウィッチを作ってくれるとママに言われていて、そのおかげでいつもよりも早く家を出ていたから助かったけど。  やがて周りの目がこちらを向いているのに気がついた。
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