10月・未知との遭遇

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「今日はどこに行くの?」  電車が動き出し、いつもの質問をする。  航も航でこう聞かれるのを待っているのか、いつも決まって自分からはなにも言わない。 「それなんだけど、実はまだ決めてないんだよね」 「え、どういうこと? ノープランなの?」 「そうじゃなくて、三つの候補があって決めてないの」  この展開は今までになかった。  航に言われるがままついていけばいいと思っていた瑞貴は、選択肢が複数あるらしいことに嫌な予感を覚えた。 「えっと、その候補は聞いていいのかな?」  遠慮がちにこう言ってみたものの、なんとなく航から決定権を委ねられそうな気がして、できれば聞かずにやり過ごしたかった。 「とりあえず次の次で一回降りるから、そこで話すよ」  どうしてもったいぶる。  こんなことも今までになかった。今日はそういう日なのか。  どんな選択肢が用意されているのか、見当もつかないけど考えてみる。  なんとなく航が言いにくそうにしているのがヒントだと思った。 「乗り換えるの? やることは決まってなくても、行き先は決まってるってこと?」 「えっと、何をするか次第で変わるの。乗り換えるかもしれないし、乗り換えないかもしれない」  それって、選択肢によっては移動しなくても大丈夫ってことだよね。  その駅はある程度知っているけど、カラオケくらいしか思い当たるものがない。  これ以上の情報は得られず、特に予想も立たずに乗り換え地点に着いた。  電車を降りて改札をくぐり、ロータリーの手前で航が足を止めた。
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