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三.
広大なサトウキビ畑の真ん中に一直線を描く、真っ白な砂利道の向こうには、世界でも何番目かと言われる美しさを誇るクリアブルーの珊瑚礁が、夕凪の水面を輝かせていた。
そこは、奈緒と出会った場所、奈緒と初めての口づけを交わした場所、奈緒と永遠の愛を誓い合った場所、そして、奈緒がたった二十七年の短い生涯を終えた場所。
眩しく白い砂浜の手前には、壁も屋根も青い、手作りのログハウスが建ち、縦にも横にも大柄で全身毛深い南国の男が、腕を組み、苦い顔で佇んでいた。
「よく、来てくれた……。あの時は……本当に、すまなかった……」
男が僕に向かって深々と頭を下げる。
「いえ、ナダさんは何も悪く無いんです、全部僕のせいなんですから……。なのにしばらく営業停止にまでなっちゃって、こちらこそ本当にすみませんでした」
「いや、俺が目を離したのが……」
「いえ、僕が勝手なことをしてトラブルが起きてパニくって……」
そんな侘び合いが何度か繰り返される。
が、やがて頭を上げたナダさんが、ふと、柔らかく涼し気な無表情で僕らを眺めている一人の女に気が付いた。
「あぁ……その子が……例の妹さんか。さぁ、今日はもう陽が沈むから夕食にしよう」
「どうも、たまどめです。お世話になります」
奈緒と瓜二つのその女は臆面も無く答えると、ナダさんの後に着いてログハウスへと歩み出した。
「これも『誤認を誘う』っていう、例の力か……。僕に妹なんていないのに」
二人の背を見詰めながら、あの時、奈緒の心と共に流れ込んできたもう一つの何かのことを思い出す。
それは、『魂留』と仮に自称している、人間では無い、恐らくは神やあやかしの類だと思う。
それがそこにいることに誰も違和感を覚えなくなる、という妙な能力があるという。
電車でも飛行機でも、チケットも無いのに当たり前にゲートを素通りして座席に座った彼女に、誰もが通常通りの対応をしていた。
『私は、真摯に誠実に生き抜いてきたのに報われなかった愛おしい魂を、慰めて浄化して、次の所へと送り届ける存在』
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