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六.
ダイビング・ポイントまで、奥さんの操縦する船で辿り着く。
「怖くないか?」
装備品を慎重に一つ一つチェックしている僕の顔を、ナダさんが覗き込んだ。
「あぁ、いえ、怖いと言えば怖いですけど……」
「まぁ、妹さんも一緒だしな。妹さんの方は上級者なんだろ?」
『奈緒との約束のためですから』と続けようとした僕の横で、手慣れた様子で準備を終え、ボートの縁に腰掛けたたまどめを、ナダさんが視線で示した。
奈緒にそっくりのウェットスーツ姿のたまどめに、僕は思わず見とれ手を伸ばしかけたが、
「さぁね」
言い残したたまどめは、その手を逃れるように、綺麗なバックロールエントリーでクリアブルーの海中へと身を沈めた。
「えと、大丈夫です。僕も行きます」
「そうか。じゃあ、俺から離れないようにな」
「はい」
意を決して僕もボートの縁に腰掛け、レギュレーターを口に咥えると、背後の海へと向かってゆっくりと身を傾けた。
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