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七.
出会ってから一年弱で結婚し、お互いの仕事なんかがちょうど調整できた半年後、新婚旅行も兼ねて、ということで再びこの海に来た。
海は、その時と何も変わらず、ただただ、透明で、青く、白く、広く、優しく、だけど引きずり込まれてしまいそうな根源的な畏怖感も呼び起こし、水深十メートル程の海底には不思議な形をした様々な珊瑚が礁を形成して、その合間を、宝石と称されるのもよくわかる色とりどりの南国の魚たちが、無数に身を踊らせていた。
奈緒と、もう一度、潜りたかった。
奈緒と、この景色を、もう一度、見たかった。
感傷が胸にこみ上げ、僕はその楽園から目をそらして海面に顔を向ける。
と、
「イルカ……?いや、たまどめか……」
とても機材一式を纏っているとは思えない優雅な身のこなしで、海中へと眩しく差し込む陽光に包まれながら、たまどめが舞っていた。
「奈……緒……」
ぼんやりと見とれていると、エアタンクがとんとん、とつつかれた。
振り返ると、ナダさんが「こっちへ」とハンドシグナルで示した。
そうだ。
僕はスクールを卒業するためにここに来たんだ。
思い出に浸るためじゃないんだ。
大きく頷きシグナルを返すと、ナダさんに着いて珊瑚の合間に広がる砂地へと着地する。
それから二時間程、水中での空気管理やコンソールゲージの使い方といった基礎から、周辺の生物や地形を観察するツアーなどの実習に集中した。
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