八.

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八.

「一通りしっかりできてたよ。ライトなツアーを何度か繰り返せばもっと慣れて行くと思う。卒業、おめでとう」 ログハウスに戻り最後の確認を終えると、ナダさんが一枚のカードを仰々(ぎょうぎょう)しく差し出し、奥さんが拍手を()える。 「あぁ……ありがとう……ございます……!」 Cカード……! どこか南国の海中写真がプリントされた、その小さなカードが、奈緒(なお)との約束の一つ目。 熱いものが(ほほ)を伝わり、ナダさんが固く僕の肩を抱くのを、たまどめは何も言わずに見詰めていた。 それから、奥さんの入れてくれたジャスミンティーを片手に、庭先のビーチチェアにもたれ、夕凪(ゆうなぎ)島風(しまかぜ)に吹かれ感慨(かんがい)(ふけ)っていると、 「廉斗(れんと)君」 誰かとの電話を終えたナダさんが声をかけてきた。 「講習も修了したことだし、他の仲間たちもみんな行くと言っているから、大丈夫だと思うんだが……」 「?どこか行くんですか?」 ナダさんへと顔を向ける。 「あぁ、ほら、今夜は満月だろう?昨日も少し始まってたし、たぶん今日、珊瑚(さんご)の産卵が見られると思うんだ。どうかな、廉斗(れんと)君、ナイト・ダイブに挑戦してみるかい?」 前回の事故の件もあってやや心配そうなナダさんだったが、その口元は、年に一度の特別なイベントに(ゆる)みを隠し切れてはいなかった。 「珊瑚の……産卵……?」 あぁ、これも、奈緒との約束の一つ……! (かな)う! これも今夜叶う! 「奈緒!!」 ()き上がる興奮に()(たて)もたまらず叫び(となり)のチェアを振り返ると、たまどめがゆっくりと身を起こし長い髪をかき上げながら、 「あたし、一緒に珊瑚の産卵とか、見てみたいなぁ」 奈緒と同じ顔、同じ声で、(やわ)らかに微笑(ほほえ)んだ。
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