猫の正月ルーティン

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 猫は、忸怩たる想いで、毎年、新しい年を迎える。  それは、お年賀としてちゅーるを特別に幾本か贈呈されるくらいでは、全く割に合わず、また払拭されるものではないのだ。 「なぜ、干支には猫年がないのか」  これは全宇宙、とくに地球は東アジア地域に生息する全猫に共通する、新年における嘆息案件である。  そして毎年、猫は、思うのである。  干支気分とは、一体如何なるものであるのか。できることなら、ほんの一瞬でもいいから、それを体感したいものであると。  そんなわけで、東アジア地域の猫の一部は、年が明けると同時に、こっそりと屋根裏にてその年の干支のコスプレをしつつ「あけおめ!」とはしゃいでみて、干支気分を味わってみるのが新年の恒例となっている。  だが、やはり気分はすっきりしないものだ。  ……というか、虚しい。 「どう? 干支ゴッコ、楽しかった?」  そして、コスチュームを脱いだところで仲間にそう尋ねられた猫は、途端に不機嫌になり、それぞれの年ごとに、こう言い捨てて正月の街に姿を消してゆくのだ。  子年。 「ちょっとムカついたから、舞浜で舶来物の鼠狩ってくるわ」  丑年。 「ちょっとムカついたから、いきなりステーキ喰ってくるわ」  寅年。 「ちょっとムカついたから、ベンガルで虎撃ってくるわ」  卯年。 「ちょっとムカついたから、バニーガールの尻触ってくるわ」  辰年。 「ちょっとムカついたから、異世界転移してドラゴン仕留めてくるわ」  巳年。 「ちょっとムカついたから、沖縄でハブ酒仕込んでくるわ」  午年。 「ちょっとムカついたから、熊本で馬刺し食べてくるわ」  未年。 「ちょっとムカついたから、北海道でジンギスカン堪能してくるわ」  申年。 「ちょっとムカついたから、オレンジの箱に猿詰めてロシアに送りつけてくるわ」  酉年。 「ちょっとムカついたから、ケンタッキーで大人食いしてくるわ」  戌年。 「ちょっとムカついたから、ハチ公像にうんこ掛けてくるわ」  亥年。 「ちょっとムカついたから、ぼたん鍋であったまるわ」  ……以上が、猫の正月ルーティンである。  笑ってはいけない。  それは干支に選ばれなかったもの故の、悲しき性なのだから。  だから、新年早々、あなたの家の猫が外に出かけたい素振りをしたら、そっと、何も聞かず、見送ってやることだ。  その出先で取っている行動について詮索するのは、野暮ってもので。
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