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02.休みの日
「ただいま」
夕暮れの時間になってやっと、隆太が自分の住む賃貸マンションの部屋に戻ってきた。
「おかえり。またアヒル探し?」
出迎えた佑里は不満の表情。
「そうだよ。しかし疲れたな……」
見えないアヒルの気配を感じ取ろうとして気を張っていた疲れが一気に出た。そして同時に、まわりの人間たちに先を越されないように注意していた緊張の糸も切れた。
「そんなに疲れるものなの?」
たかだかアヒルを探し出すだけで、と佑里は言い出しそうになったが、そこまでは言わないようにしておいた。隆太はベッドに仰向けになり、天井を見つめてなにかを考えているような表情。
「そうだね。見えないアヒルだから気配を感じるしかないんだ。それにライバルが多すぎる。みんな幸福を手に入れたくて必死でさ」
隆太は来る日も来る日も見えないアヒルを探していた。通勤の途中にも仕事の昼休み時間にも。もちろん、仕事を終えて帰ってきたあとも近所を探しまわり、休日になれば一日中、見えないアヒルを探しまわっている。
「見えないアヒルを探すより、休みの日はふたりで過ごした方がずっと幸せじゃない?」
いらだちの収まらない隆太は、佑里の言葉にカチンとくる。
「見えないアヒルを探すのは、君のためでもあるんだよ。だって、見えないアヒルを手に入れたら、信じられないくらいの幸福が手に入るんだからね。
だから、俺は佑里と一緒に信じられないくらいの幸福になりたいんだよ。どうしてそれがわからないんだ?」
佑里もまた隆太の言葉にカチンとくる。
「わたしはとんでもない幸福なんかよりも、あなたと一緒に休日を過ごす幸福の方がずっと大事なの!」
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