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03.黒い雲
どうして佑里は俺の気持ちがわからないんだ。俺は佑里と一緒にものすごく幸福になりたいんだけなのに……。
けれど、佑里とこれ以上の言い争いをするのも億劫な隆太は、無言で天井を見つめる。
そんな無言のままの隆太に向かって、さらに佑里が言葉を続ける。まだすべてを言い足りないというふうに。
「ねえ、見えないアヒルって見えないんでしょ? 見えないなら見つけようがないじゃない! そもそも見えないものなんか手に入れてどうするの?」
佑里の言葉に隆太のいらだちが頂点に達する。隆太は見つからないアヒルにいらだち、見えないアヒルを探しまわるライバルたちにもいらだっていた。そこに来た佑里の言葉。
「うるさい! 見えるものしか価値がないなんて考えてる人間になにがわかる!」
佑里の胸に怒りとともに悲しみが押し寄せる。もう何ヶ月もずっとこんな調子だからだ。せっかく同棲をはじめたというのに、隆太が見えないアヒルに夢中になってから、一緒に過ごす時間などほとんどない。
佑里はふたりのあいだに入った亀裂が少しずつ広がりつつあるのを感じた。その亀裂を修復するにはどうすればいいのか。佑里には見当もつかない。未来には黒い雲が立ち込め、遠くで雷鳴がとどろいている。
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