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04.目撃情報
次の週末。隆太は今日は少し遠くにある森林公園に行ってみようと思い立つ。見えないアヒルの目撃情報をネットで見たからだ。森林公園は名前のとおりに広大な森林が広がっているし、ボートに乗れる広い池だってある。
「一緒に行かない?」
佑里は首を振る。
「どうせ、見えないアヒルを探すんでしょ。私のことなんかほったらかしにして」
隆太の顔がたちまちくもる。
「せっかくだから一緒に行こうって誘っているのに、そんなふうに言うことはないだろう。こんなに気持ちよく晴れた日曜日なのに。
だからさ、公園に行って芝生の上にいれば、きっと気分も良くなるよ」
佑里はうんざりとした表情で首を振る。
「どうせ私を置いたまま、見えないアヒル探しに夢中になってしまうでしょ」
隆太はその言葉にカチンとくる。
「もういいよ。ひとりで行くから」
隆太は不満顔を抱え、ひとりで部屋から出ていくしかない。まだ見ぬ幸福を探しに。
にゃあ。
バス停に向かう途中で、あの野良猫が隆太に寄ってきた。隆太の足元でなにかをねだるように鳴く。やせ細った空腹の野良猫だ。全身が薄汚れていて、いかにもみすぼらしい。
「シッシッ。お前に食べさせるようなエサなんか持ってないよ」
隆太は野良猫を追い払おうとする。少し前にこの野良猫をかわいそうに思って、二、三度エサをあげたら、すっかり隆太からエサをもらえるものと思っているようだ。
にゃあ。それでも、野良猫が物欲しそうに隆太を見上げる。
「エサは持ってないんだよ。それに急がなきゃいけないから」
隆太は野良猫を振り払うように急ぎ足でバス停に向かう。
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