01.邪魔者

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01.邪魔者

「シッシッ! 邪魔だからあっちに行けよ」  隆太は野良猫を追い払う。野良猫はがっかりしながら逃げていく。やせ細った、いかにも空腹の顔をした野良猫。 「猫なんか出てきたら、見えないアヒルが逃げちゃうだろ」  隆太は公園の茂みに目を凝らし、遊具の陰をのぞき込む。それでも見えないアヒルの気配はどこにも感じられない。ふと気づけば、隆太と同じように見えないアヒルを探している人たちの姿も公園のあちこちに見える。  この公園だけじゃない。道端や線路脇、川原や廃屋、自動販売機や路地裏……。  街では誰もが見えないアヒル探しに夢中だ。下手すると、横取りさえも目論んでいるような必死の表情で。誰もが誰もにとって敵であり、誰もが誰もを疑い、誰もが誰もを出し抜こうとしていた。  疲れ果てた隆太はいらだちながらため息をつき、自分の部屋に戻りはじめる。それでも帰り道のあちこちに視線を向け、見えないアヒルを探し続ける。  見えないアヒルはどこにいるのかわからないから。見えないアヒルがどこにいてもおかしくはないから。
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