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移動する総の腕の中からゆらゆら動く縁側の景色を眺めていた。暖かい日差しの中、心地よい振動が相まって目がとろんとしてくる。 いったい全体世界がどうなっているのやら。私の理解できる範疇を越えてしまっている。そもそも冥土へ向かう覚悟をしていたのだから、いきなりことが動きすぎてついていけない。 「総様。どこに行ってらっしゃったのですか。」 総の部屋らしき場所の障子を総が開けると、眼鏡をかけた男がさっと立ち上がった。 「母さんの部屋。」 「そうちょこちょこいなくなられては困ります! お客様がもうすぐいらっしゃいます!」 「別に間に合ったんだからいいじゃん。いなくなったっていっても屋敷の中だし。」 声をあらげる男に、総は適当にあしらいながら私を抱えたまま畳の上に胡座をかいて座った。 「そうやって猫みたいにぬけぬけと。」 「ん、なんか言った?」 男の小声に総はにこやかに首をかしげる。そして私の頬を両手で包んで挟むようにした。必然的に間抜けな表情になる。 「ははっ、変な顔。」 昔見たような無邪気な笑顔が上から私を見下ろす。 『自分でやったくせに。』 聞こえていないことをいいことに、子供の頃のような気楽な口調で不満を言う。 「総様! 猫で遊んでないで、準備をしてください!」 「もう、わかったよ。また見破ればいいんでしょ。詐欺師、嘘つき、ろくでなし。あ~あ、本当に楽しい仕事だね。」 「総様、気をつけてください。 万が一聞かれていたら!」 「大丈夫。ちゃんと気をつけて見てる。」 総は一瞬鋭い視線を外へ投げかけたが、またすぐに柔和な顔に戻ってすっと立ち上がった。 「じゃあ行くよ。」 総に続いて眼鏡の男が出ていき障子が閉まる。部屋はとたんに静まり返った。お屋敷に来てから初めてひとりになる。私はたまっていた息をは吐き出して、状況を整理してみることにした。 まず私は山の中で倒れていたはずだ。体力も底をつき、後はお迎えを待つばかりだった。そしてそこに総が来て、このお屋敷へと運ばれた。 (まさに神様のいたずらってやつね。) 私はあくびをした。そういえばしばらくろくに眠っていない。これは寝ていい状態のはずだ。 (ちょっとだけ。) 私はまるで猫のように伸びをした。そしてごろんと転がって目をつぶり、そのまま引き込まれるように夢の中へと沈みこんだ。
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