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「課題だけでも出してもらわないと、成績がつけられないからね。榊さんは、一学期前半分の成績はいらないって言うんだけど……。そういうわけにもいかないでしょ。モデルは僕がやろうかと思ってたんだけど、同級生の時瀬くんに頼んだほうが榊さんも気が楽だよね」  吉原先生はそう言っておれ達ににこりと笑いかけてきたけれど……。  おれはもちろん、榊も吉原先生の提案に無言で顔を強張らせていた。その表情を見れば、自分が榊にあまり歓迎されていないのだということがわかる。でも、それはおれだって同じだ。  榊 柚乃はどちらかと言うと、おれの苦手なクラスメートだった。  おとなしいし、クラスでも目立たないし、人の害になるような子ではない。だけど、なんだかすごく、とっつきにくい。  おれが初めて彼女に関わったのは、高一の文化祭のときだった。  おれたちのクラスの出し物は焼きそば屋で。校庭に学校の備品の白いテントを立てて簡易な屋台を作り、販売をすることになった。  十時〜四時まで営業する屋台での店番は一時間ごとの交代制で、全員が必ず一回はシフトに入るようにクラスメートたちは五つのグループが割り振られた。  おれと榊が割り振られたのは、たまたま同じグループで。シフトが当たった時間帯が、十二時から一時のランチタイム。  焼きそば屋が特に忙しくなる時間だというのに、榊の働きっぷりはひどかった。
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