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「別に、謝んなくてもいいよ。おれが勝手に思い込んで誤解しただけだし」
おれがそう言うと、榊がほっとしたように頬を緩めた。
「最近の美術って、ずっと人物画だったでしょ。わたしにはうまく描けないってわかってるし。だから、授業も出られなかった」
鉛筆を指先で弄りながら、榊がぽろっとこぼす。つい気が緩んだのかもしれないけど、榊が授業に出なかった理由が案外と子どもっぽいものだったことに笑ってしまった。
「なんか意外。榊って真面目そうなイメージなのに、そんな理由で授業サボっちゃうんだな。あー、逆に真面目だから、うまく描けないのがプレッシャーになっちゃうの?」
ふっと笑うと、少し柔らかくなりかけていた榊の表情が強張った。それを見て、何か言い方を間違えただろうかとギクリとする。
おれは、真面目そうな榊にも子どもっぽくて我儘なところもあるんだなってちょっと微笑ましく思っただけで。榊を嫌な気持ちにさせるつもりなんて微塵もなかったのに。
「榊は他がうまいんだからいいじゃん。おれなんて、一応美術選択してるけど、全部イマイチだよ。さっきも吉原先生に、おれの描く絵は大雑把だって言われたとこだし」
慌てていろいろフォローを入れたけど、おれが何を言っても、榊の強張った表情は緩まない。
榊が鉛筆を握りしめたまま手を動かさないから、スケッチブックの絵も未完成のまま。いつまで経っても仕上がらない。
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