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「お、はよう……」
ぎこちなく挨拶を返してきた榊の視線が、おれの目線の上へと移動し、それからすっと足元に下がる。
「昨日はありがとう、時瀬くん」
次に榊の視線が上がってきたとき、おれに笑顔を見せた彼女の表情は和らいでいた。
挨拶したときに榊がビビっていたのは、単純におれがいきなり声をかけたせいだったのかもしれない。
だけどそれ以降も、教室や廊下で榊に声をかけて、他人みたいな反応を返されることが度々あった。
職員室にノートを運んでいる榊に横から声をかけたら驚かれたり、食堂の自販機でジュースを買ってる榊の隣に立ったら怪訝に眉を顰められたり。その度におれは心的ダメージを受けるのだけど、たいていの場合、榊はすぐに「時瀬くん?」と名前を呼んで笑いかけてくる。
人物画のモデルになったあの日以来、おれはそっけなかったり、かと思えば親しげだったりする榊 柚乃の言動に、恐ろしいくらいに踊らされていた。
もし榊が意図的におれに対する態度を変えて弄んでいるんだとしたら、おとなしいフリをして、とんでもない女だ。
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