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 高校二年生になって初めてのテスト最終日。おれは担任の吉原(よしはら)先生に美術準備室に呼び出されていた。テスト中のカンニング容疑で。  三時間目の英語のテスト中、試験監督として教室を見回っていた教師がおれと隣の席のやつとの間に消しゴムが落ちているのを見つけた。それを拾い上げた教師が「誰のですか?」と周囲に問いかけたが、誰も反応もしなかった。  落ちていた消しゴムはケースが不自然にちょっとだけ膨らんでいて、その端からメモの切れ端のようなものが覗き見えていた。  試験監督の教師が引っ張り出してみると、テストで出題する予定の英単語が細かい文字でびっしりと書き込まれていたらしく。テスト終了後に、誰がカンニング行為を行ったのかと教室での犯人探しが始まった。  英語のテスト中に試験監督に来ていたのは、国語科の中年の女性教師で、真面目で規律に厳しい、おれとは最も相性の悪い大人だった。  カンニング行為をしようとしていた可能性が高いのは、落ちていた消しゴムの近くに座っていたおれと隣の席の男子と、おれ達ふたりの前後に座っている生徒。全員に平等に話を聞くべきなのに、その女性教師が真っ先に疑ったのはおれだった。 「時瀬(ときせ)くん、この消しゴムに見覚えあるわよね」  かなり断定的な訊き方をされて、ものすごくムカついた。どうして、話も聞かずに消しゴムの持ち主がおれだと決めてかかるのか。
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