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「ごめんなさい……。立ち止まったとき、声かけたつもりだったんだけど……」 「ごめん、聞こえてなかった」  人混みの中で離れたら、どうなるか。そんなことも想像できずに、一瞬でも目を逸らしていたおれも悪い。 「ほんとうに、わかんなくなっちゃうんだよな……」 「ごめん……」  ぼそっとつぶやくと、榊が心底申し訳なさそうな顔をする。 「そういう意味じゃないから」  榊が抱えてるものの意味を思い知らされたっていうだけで、彼女を否定したかったわけじゃない。言葉足らずな発言をしてしまったことに気付いて慌てて首を振ったけど、榊は哀しそうな目をしてキュッと口角を引き上げた。 「もう、帰る?」  無理やり作ったみたいな榊の笑顔。おれが最初に惹かれたのは、榊が瞬間的に見せるふわっとした無防備な笑顔だったのに。  今日一日、彼女に哀しい顔や不安そうな顔ばかりさせてしまう自分が情けなくて嫌になる。
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