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「今帰ったら、榊が何も楽しめないままで終わっちゃうじゃん」 「でも、時瀬くんに迷惑かけてばっかりだし。また、離れて見失ったら――」 「じゃあ、離れないように掴んどいて」  だって、おれはまだ今日を終わらせたくない。  深く考えずに勢いのまま手を差し出すと、おれの手のひらを見つめた榊の頬がじわじわと赤く染まり始めた。 「え、っと……」  恥ずかしそうに躊躇われて、時間差でおれにも恥ずかしさが伝染してくる。差し出した手をパッと掴んでもらえたらよかったけど、榊はそんなタイプじゃない。榊の反応からして、このまま手を繋ぐのはハードルが高そうだ。  仕方なく、榊の右手をそっと掴んでおれの左腕の服の袖に触らせる。 「ここ、どーぞ」  おれから服の左袖を提供された榊は、遠慮がちにそこを掴むとコクンと頷いた。小さな子どもみたいな彼女の仕草が、胸にぎゅっとくる。  ドキドキしながら足を一歩踏み出すと、ふと履いているスニーカーの赤が視界に飛び込んできた。
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