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「これ、もらってくれる?」  緊張した声で訊ねると、榊が足元に視線を落としてコクンと頷く。 「つけてもいい?」  続けて訊ねると、子どもみたいな仕草でコクンと頭を縦に振った榊が左手首を差し出してきた。  受け入れてもらえたことが嬉しくて、ドキドキして。榊の左手首におれのと色違いのプレスレットをつけると、ぎゅっと彼女の手を包む。 「ありがとう……」  うつむいた榊の髪の隙間から覗く耳の先は、今日イチで真っ赤になっていて。その反応に浮かれたおれは、ちょっと調子にのってしまった。 「さらによければなんだけど……、おれの彼女になってもらえませんか」  心臓が暴れて飛び出してきそうな胸を抑えて思いきって伝えたら、真っ赤な顔を上げた榊が心底驚いたように目を見開いた。 「でも、わたし……。時瀬くんに迷惑かけてばっかりなのに……」  こんな話をしていても、榊とおれの視線はもどかしいくらいに微妙に交わらない。目線や表情で認識してもらえらない分、言葉ではっきりと口にしなければおれの本気は伝わらない。
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