居候猫のおかげ

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 それから、鈴木と戯れるその子を見かける度、小さな会話を交わすようになった。  でもそれも、鈴木が近くでくつろいでいる間だけ。  ベンチの両端に僕らは座り、決して深い話はしない。  鈴木は相変わらず自由で、僕の家にだって来るし、彼女の元だけでなく、スイーツ店にも足を運んでいるらしい。  その他でもたらふく餌を貰いに行っていることだろう。  一体どこまで太ってしまうのだろうか。 「お、ただいま。また来てたのか」  家に帰って鈴木がいると安心する。  まるで家族に迎えられたような感覚になる。  押し入れを見つめるのは毎度のことだが、もう流石に慣れ、恐怖は抱かない。  悩みと言えば、よほどスイーツ店の餌が気に入ったのか、そちらに頻繁に出向いているせいで、僕の部屋にバニラの匂いが染み付いてしまったことぐらいだ。  鈴木が部屋にいなくとも、時折甘ったるい香りが漂ってくる。 (消臭剤買いに行くか) 「あ、また勝手にキャットフード食べたな」  袋に詰められたキャットフードの量が減っている。  これが初めてではない。 「全く。そのうち歩けないぐらいに太っちまうからな」  何度場所を変えても、高いところに隠しても、巧みに餌を見つけ出してしまう鈴木。  悪びれる様子もなく、呑気に欠伸をしている。 (餌は全部缶詰にするかな。でも、高いんだよな)  悩みは匂いだけでないが、まあ癒されているから良しとしよう。  それに、人付き合いが苦手な僕に、春を運んできてくれたのは、間違いなく鈴木である。  僕は早速明日、消臭剤を買いに行くことにした。  もちろん、あの広場の近くを通って。
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