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「これなんだけど」
向き合った小さなテーブルに、彼女はデパートの紙袋を置いた。
「ネクタイと名刺入れ。ネクタイは数あった方がいいだろうし、でも見てたら名刺入れもいいのがあったから迷って。せっかくだからと思ってふたつになっちゃったんだけど、良かったら使って」
折り畳み式の赤いテーブルは、前のが壊れた時に一緒にネットの通販を見てて、これがいいと俺が言ったものだった。
会わない間、これ見てどう思ってたんだろう。
「……ありがとう」
手に取りもせずに俺は言った。
「それで?」
「……え?」
「このためだけに呼んだんじゃないっしょ?」
一瞬視線を泳がせ、迷うように唇を開いて彼女は言った。
「……実家に、帰ることになったの。……だから……和馬がどう思ってるか分からないけど、……謝罪も含めて一度会ってはっきりさせておきたくて」
「謝罪って?」
「あたしが、あなたに。……せっかく、あんなに頑張って告白してくれたのに、全然楽しい思いさせてあげられなかったから」
「それは、別にそっちのせいだけじゃないでしょ?」
彼女は首を振る。
「余裕がないなら、ちゃんと断るべきだった……って思ってる」
「ちがう。俺が」
言いかけた時、会わなくなってからの、俺が諦めてからの時間が責めるように立ち塞がった気がした。
「あたしは、ずっと、悪かったなと思ってたよ」
「……会いたいとは思ってくれなかった?」
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