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彼女は答えず、俺は言った。
「ごめんねなんか要らない。……俺はその程度だった?学生に強引に告白されて、付き合ったけどうまく行かなくて悪かった。その程度?」
彼女は唇を噛み締める。
「俺は、これからどうしたいのか聞きたい。実家に帰るのも分かったけど、どうしたいのか」
「……あたしは、謝って、あなたが悪いんじゃないって言って、ちゃんと別れた方がいいと思った。あなたが後味が悪いだろうから」
「そういうことじゃなく、どうしたいか俺は聞いて」
「母が、癌が見つかってね。……前に少し話したけど、父も病気して脚が悪いから、二人だけじゃ入院も手術もその後の治療も難しくて。自分も……あなたと会わなくなったくらいから体調崩して会社休むことも増えて、……もう無理だなと思って。あ。あたしは病気じゃないけどね。……もう、向こうでの仕事も決めたの。こっちで求人探して、事情伝えて、家族の世話が出来る範囲で働けるところが見つかって」
「……どうして、すぐ教えてくれなかっ……」
言いかけ、やめた。
俺に話したところで、どうにもならないからだ。
ちょっと思い通りにならなかったくらいで、俺には合わなかったなんて簡単に逃げ出すようなガキに相談してくれるわけがない。
彼女は寂しげに微笑んで言った。
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