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「本当は、会うのも迷ったの。……でも、……分かって欲しいとか、寄り戻したいとかじゃなくて、ただ、もう一度会いたかった。卒業おめでとう、も直接言いたかったし……って、自分のことばっかり話して、言ってなかったね。……卒業おめでとう。久しぶりに会ったら大人びてて、びっくりした。スーツのせいだけじゃないよ」
「……いつ帰るの?実家には」
「なるべく早く。仕事の引き継ぎが終わり次第。……帰るって言ったら、両親が当てにしちゃってるみたいだから」
膝で握りしめたこぶしが冷たくなって来るのを感じていた。
「……事情は、分かった。でも、そういうことならこれは受け取れない」
テーブルの上の卒業祝いを押し返すと、彼女が眼を瞠った。
「だって、それじゃまるで手切れ金だよ。俺はそんなの受け取れない。これからも付き合えるなら、ありがとうってもらえるけど」
「そういう意味じゃなくて」
「迷惑かけたとか、……別れの記念みたいに、想い出みたいになるなら、そんなもの要らない」
「和……」
ひとつ息をついて、俺は言った。
「確かに、俺ガキだったよ。分かってたつもりで何にも分かってなかった。……後で何万回でも謝るけど、他の女の子と付き合ったりもした。でもすぐ別れた。……ただ誰かが傍に居ればいいってことじゃないんだって、分かったから」
それは嘘じゃない。
この前も、酔って家帰れなくなって泊めてもらいはしたけど何もしてないし、向こうはもう他に好きな相手ができたと言ってた。
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