卒業

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 ――――5月の連休。  親睦を深めるためのバーベキューとかいう上司の訳分からない誘いを断って、俺は新幹線に乗ってた。  在来線に乗り換えて着いた小さな駅で待っていた彼女は、俺を見つけると一瞬驚いた顔して、それから笑った。 「何、なんか変?」 「わざわざスーツで来てくれたの?」 「いや、前より着慣れた感あるだろ?お父さんとお母さんにも会うし一応。ネクタイもほら」 「うん。あたしがあげたやつね。見れば分かるから」  俺をなだめるように頷いて、彼女は小さく呟く。 「ありがとう」  お母さんは無事に手術して退院はしたけれど連休明けからは抗癌剤の治療に入るそうで、彼女自身も新しい仕事と両親のサポートの両立で疲れているのは電話やメールのやりとりでも感じていた。 「あと、田舎だから帰ったらすぐ見合い話持ってこられたとか言ってただろ?そりゃ1回顔出さないと」  笑って彼女は言った。 「ありがと。親には話してあるんだけど、近所とか親戚がね。……あ。じゃあ、車こっち」 「うん。あと」  前より少し小さく感じられる彼女の肩に手を置いて、ずっと考えて来たことを伝えた。 「今日は、俺には気遣わなくていいから。少しでも楽になってもらうために来たんだから。俺の心配はしないで。普段無理してる分……その……えっと……癒しじゃないけど、うまく俺使って」  自分なりに精一杯の言葉だったのだが、彼女はフリーズして。  何か間違ったかと思ったら、俺を見上げる眼にみるみる涙が浮かんで、こぼれて頬を伝った。 「……あ……ハンカチ!ハンカチ持ってる。いや、俺もう社会人なんだからそれくらいちゃんと……」  ジャケットのポケット、両方探したけどなくて 「え?ウソ。マジで!?いやいや、絶対入れたって」 慌ててスラックスのポケットに手を突っ込む俺を見て、彼女は吹き出して笑った。  涙浮かべて、おかしそうに笑ってた。 『卒業』了
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