卒業

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 1年前、彼女に出逢ったのはバイト先の居酒屋だった。  俺は店員で、彼女はお客として何度か来ていて。  何で印象に残ってたかといえば、声だ。  色んな人の声が入り乱れる中で、離れてても妙にキンキン響いて悪目立ちする声もあれば、低音の楽器みたいに溶け込んで気にならない声もある。  彼女は後者で、中ジョッキ2、3杯は軽く飲むのに話すトーンは変わらず、けど注文する時はよく通る声で俺たちを呼び、――――こうして振り返れば、別に他の客と特別何が違うってわけでもないけど、とにかく俺はその人のことを覚えていた。  ある日、会社の同僚らしいいつも一緒に来る女性と店を訪れた彼女は、普段は相手の愚痴を聞く側なのにその日は珍しく彼女が疲れた調子で話していて、やっぱ会社っていろいろあるんだろうな、なんて思っていたら。 「あれ。忘れ物」  会計して帰った後のテーブルを片付けていたバイト仲間の声がして、思わず駆けつけた。 「忘れ物って?」 「スマホ。どうしよ」 「俺分かる。行って来る」  ひったくるように受け取ると、俺は何も考えず外に走り出た。  見回すと夜の繁華街に浮かび上がるように、見覚えた白のコートと赤いバッグを見つけ、ダッシュして追いつくと相手は足音に驚いた様子で振り返った。  遊び程度のフットサルサークルに居るだけでも多少は鍛えられていたらしく、みっともないほど息が切れることはなくて、俺はスマホを差し出して言った。 「あの、これ」
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