卒業

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 彼女は俺より5つ上だった。  年上だってのは分かってたからショックはなかったけど。  飯食ってるのを、まるで犬や猫が何か食べてるのを微笑ましく見るような眼で見つめられてたのは、かなり恥ずかしかった。 「……俺、なんか変な食べ方してました?」 「あ、ごめんね。全然そうじゃなくて。あたし、きょうだいも居ないし、親戚も女の子が多くって、あなたぐらいの男の子って会うことないから。気持ち良く食べるなあって。つい」  ……やっぱ、そうだよな。  男の範疇に見られてないな……。  彼女は、聞かれるまま俺が話す学校や友達の話を楽しそうに聞いていたけど、なぜか時々寂しそうな表情を見せた。  付き合ってる人、居るんですか、と聞きたかったけど言えなかった。  帰り、一緒に駅まで来ると彼女は言った。 「今日は、ありがとう」 「いや、俺のがご馳走になったのに」 「いつも仕事関係の人しか顔見てないし、それに、自分が学生の時のこと思い出して久しぶりに刺激受けたというか……うん、仕事以外の世界もあったなって思えたから」  ということは、この人には今仕事以外には何も無いってことだ。  それじゃ、と言いかけた彼女を 「あの」 と引き留めたのは『次』はないと直感したからだ。  カッコ悪くても何でもいい。
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