卒業

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「ここでいいよ」 「送るよ。家まで」  初めの頃のデート、外で会うと必ず帰りはそんなやりとりをした。  俺は少しでも長く一緒に居たくて、彼女は遠慮して。 「家、反対方向じゃない」 「いーんだよ。学生はヒマだから」 「とかいって、この前はゼミの課題ギリギリで焦ったって言ってたじゃない」 「それは関係ないっしょ。俺がサボってただけだし」  電車待ちながら、そんな話をするだけで幸せで。  恋すると誰でも馬鹿になるものなんだな、なんて思ってた。 「次、いつ会える?来週は?」 「……ごめん。来週は、休出かもしれない」 「そっか。……その次は?」  彼女は顔を曇らせて考え始め、困らせていることに俺は気づく。  そういえば、新しいプロジェクトが順調に進まなくて、上司も同僚もピリピリしてて今週は疲れたって話を聞いたばかりだった。 「あ……じゃあ、いいよ。……大丈夫な時あったら、その時言ってくれたら合わせるよ」  ごめんね、と謝る彼女は改めて見ればちょっと顔色が悪くて、帰りも遅いみたいだし疲れていたんだと思った。  それなのに会いたくて、一日連れ回して、やることやって、俺なんか愚痴聞くことくらいしか出来なくて何の役にも立てないのに無理させてるのが情けなかった。  
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