相違 -Body & Soul-

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相違 -Body & Soul-

 私はundo gunへの入店と同時に、源氏名はローズと、了子マネジャーに命名された。よく有りそうな名前だが、系列店初めての初代ローズになった。  盲である事は、徐々に来店の方々に知れる事になり、ほぼ無いステージ後の接客でも無理な要求はされず、世間話を交えた会話でジョブを終える。そもそもは比較的な上品なのぞき部屋で、鑑賞としての位置付けをされては常連に至るのが通らしい。  そんな緩やかな日常を過ごす中で、二十歳の秋に角膜手術のGOが最上先生から出て、一週間以内に入院する事になった。  了子マネジャーには、そういう日が来るかもしれないとは事前に伝えており、系列店8つはあるからヘルプで回せるから気兼ねしないでだった。  ただ、いざ決まって報告すると、きつく抱きしめられ良かったと喜ばれた。もっとも皆に話すと我事の様に有頂天になるから控えるとの配慮はされた。分かってる。皆感激屋だから。  そして角膜移植手術は予定通り無事に終わり、光は徐々に戻り始め、やや2ヶ月掛かって見える様になった。小学校の時の様に矯正眼鏡が欲しかったが、裸眼で頑張ってと最上先生に言われたので辛抱した。そして甲斐もあった。  瞳に差し込むその輪郭がやっと戻って来たその日に、思い立っては、母親にお祝いと改めて買って貰った姿見の前に立ち、ワンピースを紐解き、そして一糸纏わぬ姿なった。  光を失ってから9年、身長は140cmから165cmにやはり伸びており、こんな親戚がいたかなが、私の今の第一印象だった。  あの時童顔だった相貌はよく母に似ていると言われたが、締まった顎のラインと鼻筋はきっちり父を引き継いでいた、とても不思議な感じだった。  そして魅了される身体と口々に上がるのは、偏に語れない。肩は成長期に激しいピアノレッスンで筋肉と骨格が出来上がり、ちっとも女性らしくない。  乳房ももっとあるかと思ったが、思った以上の筋肉質の小ぶりでがっかりした。そこに蕾の様な乳首が乗っているだけで、所謂ファッション雑誌で見かけるモデル体型だった。もっともファッション雑誌でヌードなんて無いから、比較がどうかしているのか。  ただ身なりだけは異質だった。全てのスタイリングはレイさんに任せっきりだったので、男性が好きな女性ではなく、女性が好きな女性に嗜好が現れていた。女性が憧れる長く艶やかな髪質、しっとりした肌ツヤ、無駄毛は恥丘に一本筋あるだけ、爪はどこも光輝き、売れっ子の女優さん扱いだ。  そうレイさんの元エステシャン全開の作り込みでここ迄変化するのかと、やり過ぎの言葉がやっと出て、吐息が漏れたが、これはこれで美しい私だった。  初めまして大人の私、これからもよろしくね私で、私をより知りたいが漸く解消された。うん、頑張って慣れるよ。  その後養護期間として、激しい運動を避けては軽く半年は自宅で静養していた。  ただundo gunの仲間から、快気祝いとして実家近くに寄られては付け届けを丁重に貰った。揃ってJCBの商品券のケース、ショッピングにしてもギフトショップでも換金出来るから、ここはビジネスマナーの一環らしい。  そして、いざ仕事仲間のその姿を拝見すると、その声色からああ想像通りが年上の方々で、同年代近く程違和感はあった。女性の変声期もあるので、その移行中もあるだろうが、それとも少々違う印象を受ける。  衝撃だったのはここ迄妖艶だったかの多田葉子事ショウさんだ。ショウさんはヘルプ多々で、盲の時に、たまたま同じシフトに入ると、豊富な社会経験から見事な下げが出来上がり過ぎて、どこのお弟子さんですかと押し通すと、私の同門弟子にしても良いわよで両手をいつも優しく包まれる。  そしてまた、レイには仁義を通したからと、二週間後のデートをせがまれ両手を包まれた。こうなるとは決して嫌とは言えない。落ちてのはいから、ショウさんからただ嬉しそうに同じ視線の高さそのままのハグをされた。  まああれだ、仁義を通した以上はそういう事かなと、日頃の私に対するフェロモン量から深く察した。  そして日々、あるもどかしさが募って相談をしに行く事にした。この手の事は関謙さんと子規さんが即答してくれるだろうと、教えて貰った関住宅建築事務所に電話したら、娘さんの光代さんが出て、あらローズさん遅かったわね、瞳は大丈夫、そう明日にでも事務所兼邸宅に来なさいよだった。一瞬怯んだ。関住宅建築事務は元暴力団隊関三組事務所ではあるが、横浜三ヶ月抗争ももはや10年の時が流れている。硬い表情そのままに、はいと返事をしたら、快くお待ちしてますとことりと切られた。  関住宅建築事務所はどうしても高台にある。元暴力団体邸宅とあって、舎弟を沢山抱えて万が一の襲撃に耐えなくては行けない。ここの決め手が横浜三ヶ月抗争のトラック暴走を食い止めての、外観をしっかり残している。  関住宅建築事務所には春のやや閑散期なのか、元若手かが身なりはシャッキリ整えて横浜のサラリーマン風情に称えていた。その若手3人に尋常に素早い動作で直角お辞儀をされた。すかさずC調の関光代事業部長さんが、無邪気に若手を馬鹿と叩きに行った。光代さんは、若いから何でも食いついてundo gunに行った事を次々吐かせた。接客に関しては神々しくて、そのまま夢見心地に帰りましたと、適度な距離は保ってくれた様だが逆に照れ臭い。苦笑いしたところにサイン帳を差し出されたものだから、どうしても気恥ずかしく、手早くサインして、事務所の奥に進んだ。  関邸宅は、若手が詰めれる様に大広間が多く展開する。もっとも今となっては解散している為、長閑な雰囲気に包まれる。そして奥の一室の会談部屋に招かれた。関謙さん、子規さん、光代さんが揃っているとなると、いざ神妙になる。  光代さんが察しては給仕をし、自ら展開するスポーツジムの世間話をしては和ませた。和んだところで、私は重たい問題を切り出した。大人って、何故内面と外面が剥離しているのでしょうと、急に視野が広がった故の私故の悩みを解きほぐして行った。  母梓と父重富は順調に歳月を重ねたので、日常生活中で慣れて行った。先輩のチルさんもショウさんも、30代前半も実が伴った美形だった、何故夜の世界かもそれはかなり磨かれてものでしょうと。令子マネジャーはもっと守銭奴の頑なで強い方と思えば、普通にミュージカル俳優の雰囲気を醸し出してるは、彼の娘はバレエ歴が長いから舞台映えするからでしょうと。  問題は若手で。坊やさんも逸見さんも年齢不詳過ぎる若さで、声はそうだけど身なりを受け入れるのに時間が掛かった、それは生死の世界の緊張が未だ抜け切らないからだろうとただ溜め息を込められた。  そして女子。マリーさんはAV企画女優も声の上ずりは何かを秘めているのだろうか。セイさんは今もバレリーナで女子の変声期で潜る傾向も肉体と声は一致しない。ノンさんはやたら天真爛漫で資金が出来たら海外ミュージカルに挑戦してるが何が突き抜けないのだろう。アッキーさんは掠れる声と坊やさんの元彼女で憎々しいがいざ顔を近づけるとまあ可愛いかだ。  困ったのが、最大のパートナーにしてフレンドのレイさんだ。癖は強いが綺麗なハーモニーで、いざどんな美人さんかと期待してしまったが、角膜手術後暫しに会ったレイさんそのものは、ロビーで座席を温める派遣受付嬢と、ただ過不足の無い女性だった。そんな普通より上の女性が、この夜の世界に馴染みきり、その私をパートナーに選ぶかの性的嗜好が皆目理解出来なかった。  その常に疑問の表情が浮かぶのか、レイさんと会う機会が徐々に失って来ている。レイさんも機微に富むので、私の漠然とした愛情が薄れて来ているのかと察していると思われる。ただレイさんは、今日迄の私を常にサポートしてくれた恩人なので、このまま自然消滅はただ不義理では無いかを、包み隠さず打ち明けた。  子規さんが切に解く。 「ここ最近のご時世なら、パートナーの性別はどうしても希薄しても良いとは思いますよ。ただ、寂しさから養子を迎えて家族を作った時に如何かしらね。若くも無い母親同士が夜な夜な不思議に肉体を貪り合ってるのが、何かの拍子で子供に見られたら、上手く飲み込めるのかしら。そう御恩は大切だけど、未だうら若き麻美さんには、きっと運命の方に出会えると思うの。無理に切出さなくても良いから、この麻美さんの瞳のままでいたら、二人とも新しい道を歩めると思うわ」  光代さんが仏頂面で生々しいに立ち入り過ぎも、まあレイは掴み所が無いから良い機会よと。確かにレイさんは何にでも相槌を打ってくれる、人物としては大人だ。  そこに関謙さんが被せる。 「俺はこう思うんだ。人間が形成されるのは、腹のやや下にある丹田の鍛え方じゃ無いかって。自分が出来上がって無い若い衆には、普段から声をもっと出せと声を簡潔に叱咤している。そんなんで若い頃こいつはどうも映えないと思ったほぼ奴らは、20代後半には声も生業が一致してくる。まあそういうの去勢している俺も焦り過ぎだが、声が出来切っていない若い衆は、ローズがいざ開眼した世界そのまま、面を食らってしょうがないと思うが当たり前なんだよ。もっとも、鋭敏過ぎる聴覚もこうなると、不都合多いものだね。いや失礼、角膜手術成功出来て本当良かった。ローズは迷ったらこう鏡を見ると良いよ、私はハイカラさんで幸せだと。俺はこう、ただローズの幸せを深く願っている」  関家が深く感に入ったか咽び、困ったなと中庭を眺めた時、芸需品クラスの銅像に乗ったブロンズの菩薩像に胸を突かれた。雰囲気だけで収まらない愛しみが、どうしても釘付けにした。何故この様なブロンズ像が、やや訳有りの邸宅にあるか。  そして首を傾げた仕草を子規さんに拾われた。 「あら、きちんとファンはいらっしゃるのね、あなた。そうよね麻美さん、元ヤクザのお家にブロンズ像は無いわよね」 「そこの菩薩像も俺の習作でね。まあ習作作れる時間があるだけ幸せな事だよ。何せ芸術家っていうのは拘りが強くてね、開所1週間だと言うのに呑気に土台だよ。あとは流し込むだけだって、何を思い悩むやら。それだったら、俺が納期間に合わせようかで、通常業務投げ打って鉄幹徹夜だよ。それが港町の港湾プロテスタント教会のマリア素描だよ」  知ってる。観光街の港湾プロテスタント教会のブロンズ像のマリア素描は、観光客でなくても、失明前に何度かマリア素描見たさに通っていた。その少女マリアが果敢に立ち、艱難辛苦に立ち向かう凛とした表情は、どう言う作者の意図か分からなかったが、それが関謙さんならば、踏ん張るんだよとが受け取れた。実にらしいなと。 「そうだな、俺にも成すべき事が出来たな。ローズモチーフの観音菩薩のブロンズ像作るべきだな。久しぶりに等身大に挑んでみるか」 「それ、麻美さん観音菩薩の額に白毫があったら、実物の麻美さんにも出てきそうよ。それは諦めてマリア像にしなさいよ。丁度受胎に近いお歳で結構な大作になりそうよ」 「それ良いわね。うちのスポーツジム:ブリッジジムネスに家族割引で置かせて貰いますからね」  関家はただ喧々諤々になり、盛り上がる一方で、ふと、いや流石に合いの手を伸ばした。 「あのう、モデルの際はパンツだけは履いて良いですか、基本冷え性ですから」  瞬間に爆笑が来て、一様に机を必死に掴まれた。  裸身のマリア像を作るなんて、そんな大それた事をしたら、煉獄に落とされると、至極まともな返事を返された。  それならばは、私がマリア像で良いのかと、今日迄の出来事が巡り、マリア様に沿った人物になってみようかの希望がふつと心に灯った。
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