唾棄 -Fuckin-

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唾棄 -Fuckin-

 undo gunに復帰したのは4月末だった。まるで何事も無かった様にステージに復帰したものの、暗黙の了解の盲からの回復は、了子マネジャーが思う所があって暫し控えているとの事だった。率直に盲を売り文句にしたいのですかと淑やかに言うも。そう言う事で前のめりに絡んで来るしつこい輩がいるのが相場だからと、体重の増減の一喜一憂の一例を出してくれた。そしてそれは当たる。  復帰間も無くから、私のステージを度々聞いて来る、性別を隠したいのか黒のキャスケットに長い髪を全て畳んで、大きな半透明のサングラスのカジュアルな美人さんが積極的にいると。  何故女性かは、令子マネージャーの鼻の効くキャストセンスで女性も好きなアーティストが系列店漏れ無く絢爛に並ぶので、何ら不思議では無いも。私の出演時間を聞いて、その女と男ペアでNo.2とNo.3部屋に無難に入れるのが一つ。もう一つは、御祝儀だと都度都度5万円を包んで、どうか私にだった。それが週一ペースだと不可思議しか無かった。  ここは横浜だから、羽振りの良い豪奢な一風変わった客はいるものと、令子マネージャーは溜め息に落ち着くが、私は違った、過去あの味わった視線をどうしても蘇って来る。  それとなくレイさんに相談しようも、事務方が私の回復と日頃の雰囲気を察して、別の系列のキャバクラにシフトを移していて、ここから追いかけてどうしようかだ。  こうなればショウさんだが、根本何をどうして真面目なのか、提携先のヘルプにと全国を飛び回って、今は呉市のクラブのメインに入って人気で中々帰って来れないとか。スマートフォンで長通話しようにも、やっと戻って来た視界のセンスをこうだと決め打ちできないので、いつか柔和になる顔を拝めながらごゆっくりにしている。  後の懇意は春の異動の時期を経て、馴染みの仲間は今は離散している。それでも最近の懇意はアイラ事真行寺遥さんで、自己破産寸前の苦労人だ。ここに巡って来る迄は媒体タレントも、ITのフリー素材が広まったお陰で、仕事が激減して薄給とケア代の請求書に追われているらしい。とは言えファニーフェイスと魅力的なEメジャーキーで、先々のギャラから返済計画の目処は立ったと、私に嬉しそうに話し掛けてくれる。  相変わらず坊やさんの送迎はあるも、帰り掛けの方向はアイラさんと同じなので、アイラさんお勧めのアメリカンベーグルストア:アナスタシアに立ち寄り長くはならない歓談に入る。アナスタシアのオーナー輿水小夜さんは、アイラさんの遠い親戚で、挨拶の一杯は濃いデミタスがサービスされる。これが実に芳醇で決まって笑顔になる。  そしていつもの様に何気ない歓談に入っては、毎度私に御祝儀を包むお客さんって何でしょうねになる。アイラさんは訥に。 「ままタニマチさんっているでしょう。ローズのこのほっとけない雰囲気だったら、ついブランドの洋服1セットでしょうけど、この御時世ストーカーがどうのこうのになるから、御祝儀が適度な距離こそが妥当ではないかしら。私もオファーがあった時はそれなりに、貢物提供された口よ。そんなに気にしない事よ」  アイラさんの陽気さが好きだ。私は最近迄何気無い一言で背中を押されて来たのだけど、いざ光が戻ると、その一つ一つが見につつまされる事になる。母父、親友、そして何かと気に掛けてくれる方々がフィードバックしては、涙が伝う。  アイラさんが必死に、全然良い事言ってないから、食べようよ私達の好きなブルーベリークリームチーズベーグルと。またも若干塩気が混じってしまうのがただ照れ臭い。  そして翌日のundo gun、私のもどかしさにどうしてもの火が灯った。坊やさんが午前の部の2ステージ目に、あの如何わしい男女のペアが入場チケットを買いましたと。いつものうんざり気味の報告に、今日が潮時と感じた。私は光が戻ったのに、坊やさんの火傷を負ったただ愛しい両手を握って、初めての目力を送った。坊やさんは、照れ混じりに目を背けるも、御心配なく全ては私の責務ですからと可愛く照れた。  そして公演のチャイムがなり、春のブルー・アイド・ソウルの音楽セットが流れる。 「Redbone - Come and Get Your Love」。軽やかなグルーブでステージに入場も、光が戻ってものセンスで皆が前のめりになる圧を感じた。今回は、エロス全開の御構い無しのマリーさんの蒼のシースルキャミソールを借りて、パンツもTバック仕様、そして胸は盲の時の様とは違いブラは着けていない。知己ならばどうしてのステージだ。  ひりつく視線は、全9つのランプが着くも、No.2の妬ましい視線、No.3のただ如何わしい視線の、ほぼ懐かしい視線そのものだった。  私は表情を何一つ変えず、今日だけは丁寧にスモークガラスに迫っては、両乳房の輪郭を丁寧になぞり、しなやかな痴態を晒した。特にNo.2とNo.3は大サービスだ。 「Sly & The Family Stone - Everyday People」。次も軽快なソング。ただ純粋なソウルに浸り、セイさんが小刻みに入れるシェイクアップの仕草でヒップを釣り上げ押し上げた。踊りは正面と背面と、盲時代そのものシークエンスも、No.2とNo.3には、Tバックの紐を意図的にずらしては、あの頃より更にエステサイズされた股間をパックリ見せつける。普通の感性なら一気に魅了され何かが飛んだ筈だ。  ここで室内の可愛い熊の照明が、どうしても可愛い遠吠えと一緒に赤になる。令子マネジャーからの刺激し過ぎの警告ランプだ。当然知らん振りした。 「Paul Young - Everytime You Go Away」。場面は淑やかなバラードに浸る。私は定位置のローソファーに戻り、いつもの様に踊りでキャミソールの左肩紐がズレたままに、乳房が剥き出しになり、ここではきと見せつける。そして今日は、普段よりも冷静も、今や敏感となった乳首を下から3度も掬い上げて、理性とのギリギリの線で恍惚の表情を引き出す。  そして普段より焦らす様にTバックを下げ、長くなった両足のみずらして行き、絨毯にさわっと下ろした。これはレイさんの、もうその手のフェチには堪らないわよの取って置きの指導だ。部屋越しでも、滅多にしない微かに精液に香りが届いて来ている。  まだだ、私を見つめるNo.3の視線は尚も張り付く。もう私は、あなたの知ってる私では決してない。  普段のステージでははここから、キャミソールの上から見えぬ女性器と触れ合うのみで終幕へと向かう。私は意を決して、裏返りヒップを上げ、女性器を弄り各部屋へと丁寧に向ける。そしてNo.3へと体を向け落ち着かせると、私はキャミソールをたくし上げて、女性皆が触れて止まない柔らかなヒップを晒した。それでもあなたには足りないだろう。私は人差し指と中指で女性器を広げ、未だ狭き穴を広げた。  そうでしょう、いつもあなたのムラムラが募って押し込めた、この身体。果敢に攻めようとする後背位がここにある。中学生にそんな器用な体位の真似を遂行出来る筈も無くて、仕方無く正常位へと向かせては不器用なピストンで好き勝手に終わる。虐げっぷりはきつく覚えている、それは今も胸を締め付ける。  これでも足りないでしょうと、私はショウさんの高等過ぎるフィニッシュを真似る。股を広げ腰を突き出しグラインドさせながら、ローソファーに陰核を大きく擦らせる。もっと見たいでしょう、もっと近くで見たいでしょう、あの時の思うがままにしたいでしょう。でももう少しよ。私は最後とばかりに、負の感情のままに、濡れそぼった女性器を激しく撫でまわそうとした時に、強制終了とばかりに「Debussy - Arabesque No.1」へと前ぶり無しに切り替わった。でも段階としては十分だ。  ステージを降りて間も無く、令子マネージャーはプンスカで、私の両手両頬を挟み込まれた。指導じゃない事をしてる、見えるからって何でも真似しないの。そもそもステージだけで果てたら、接客有りきの適度な商売にならないから。ごもっともです。私は即時に返した、でもNo.3から指名は入ってますよねと。令子マネージャーは確かにいつもは観覧だけの御祝儀コンビのこれと、普段の4倍はあろうのやや分厚い御祝儀袋を出してが、接客はハンサムさんだけに行ってねと。まあいつ縁を切っても惜しくない客だからご自由にとのお墨付きは貰った。  私は、光が戻っても坊やさんにクラシックな色相の廊下を手を引いて貰い、No.3に導かれ、坊やさんが部屋を4回ノックしてゆっくりと開く。坊やさんはいつも通りに羽織ったロングニットカーディガンを拾い、私は上半身を晒した。  私は盲の時の様な視線固定させるも。そこにいた人物は、何を覗き部屋で格好つけてるかのトラッドスタイルに、黒のキャスケット、大きな半透明のサングラスをしている、変装してもどうしても知ってる奴、千速仁成先生だった。いや今は先生はいらない。  千速仁成は憎たらしい程に、失明する前の相貌を隠せずに横浜っ子らしくスカして座ってる。お金を存分に注ぎ込んでのハンサムぶりのケアとはただ呆れる。一時の迷いで、初めては千速仁成でも良かったかは、今ではただ母梓通りただの鼻につく変態クソ野郎だった。  ここまでは定石、私は定型通りに接客のお礼とこれ迄の数々の御祝儀のお礼を述べては、身支度を少々ずらして貰えますかと告げた。千速仁成は小慣れた手つきで腿迄ずらし、後は任せると振る舞った。鼻には着くが預かり知れぬを決め込んだ。千速仁成は大きな半透明のサングラスをここで漸く外し、散々見飽きた筈の私の乳房に釘付けになった。  私はさも手探りで下半身の身支度を膝中頃まで落とした。そして激しい失望に落ちた。あまりにひょろ長く脆く折れそうな男性器だった。盲の時でもここ迄弱々しい男性器があったかと過ぎった。あの、為すがままだった時期、何かしらの補正が入って普通だったのが、夜の世界を泳ぐと、あなたの雰囲気そのままただの下劣な男性自身そのままだった。  私は、惚けた振りのままゴムを装着する作業を飛ばし、恐々と男性器を握ってはジョブに入り、痛い所は有りませんかと慇懃に振る舞う。千速仁成は小憎たらしくオクターブ下の太い声でさも他人を装う。失笑しそうになったが、最後の目的の為にはどうしても冷静だった。  柔さから辛うじてのエレクトに達した時、テンカウントの初めてのゴングが鳴った。ここからだった。右手の竿のスロージョブ、そして左手でさも愛しさの袋の包み込み。千速仁成は全くの無防備だった。  ピアノにはまり掛けていた時、握力を鍛えようと素手で胡桃二つ握っては或る日綺麗に割れるこつを掴んだ。何て事は無い接合部を合わせては確かなポイントを掴んで割るだけだった。それが右手も左手にもなっては、父重富の晩酌の肴になっては大層喜んできくれた。そう言えば思春期から胡桃割りをしていない。今日はあれだけど、この目でしっかり父重富の喜ぶ顔も親孝行だろうか。  7カウント、思いっきり長いストロークを素早く交互した。それと同時に左手で二つの玉の転がしてはポイントを的確に探り当てた。この間にも千速仁成の脈動は早くなっている。夜の世界に入ってから、もうこのカウントはきっちり掴んだ。  9カウント、私はとうとう言った。千早先生は本当好きですよね。千速仁成は羞恥心を超えた快楽のゾーンに入った。やはりと言うべきか、攻めるより攻められた方が激しくエレクトした。  そして最後の10カウント、千速仁成は痙攣のままにいつもの憎ったらしCメジャーキーのカーブを小綺麗に吠えた。私は右手で握った竿を千速仁成自身の顔に向け、左手で袋の入った精液を絞り出す様に強く握りしめた。どこにその精液が入っていたかの様に、精液は高く飛び散り、顔面どころか室内の天井にも達した。私の裸身にもやむ得ずも飛び散った。  その昇天し切った顔はあまりにだらしなく、私は後処理を何ら拭う事なく立ち上がった。唾棄。そのままだ蕩けきった顔に唾を吐きたかったが、自らの精液を存分に被っていてその隙間すら無い。最後の最後で目論見が外れた。私は形振り構わず恍惚の底辺にいる千速仁成の両頬を激しく往復ビンタした。それでも起きない、右手は余計精液に塗れて汚れた。  それでも憤怒の涙が伝い、もう往復ビンタをと振り上げた時、坊やさんが右手一つで千速仁成の襟首を掴み上げ室内から目に見えぬ速さで放り投げた。  坊やさんの見た目と声色の少年振りから想像出来ない屈強さで、不意に女性の体の芯がジンとした。その感情は女性の本能そのものでは無いかとその時は思ったが、後にそれはただの衝動だったと、運命の愛すべき人に抱かれて漸く知る。  今や千速仁成の精液まみれのNo.3にその廊下、いやそれを全身に浴びた千速仁成の始末に、坊やさんが襟首を掴み、ふざけるな、ローズさんに謝れと何度も繰り返す。それでも昇天しきってるので、やってしまったかなと左手の握力を確かめる。握り潰してはいないけど、快楽最大のスイッチ入りっぱなしでは廃人かと思い知った。  そして、No.2の部屋にいた美貌ますますのメイドさんの室伏桜子が、ワナワナと震えては膝を着き、膝で歩いては千速仁成に辿り着き、裏汚れた身体を丹念に拭い、必死に仁成御坊ちゃまと泣き叫びながら、必死に問い掛ける。  こいつ千速仁成は世界でたった一人の愛されるべき桜子さんを深く知る事なく、別世界に行ってしまった。  愛って何も、唾棄すべき相手に泣いて謝罪される事もなく、未だ穢れる私は何処に辿り着くのだろうか。  自然と右手で中指を立てるも、まだ世界は広く、この先きっと運命はあるとの、たったそれのみの決め事を込めての、これは最大限の侮蔑だ。
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