嘘じゃ無かった

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 まず私は左腕に刺さる点滴の針を気遣いながらまだ痺れが残る指先で左耳のヘッドセットを外した。そして彼女に差し出した。 「はい、高島さんよく出来ました。後もう一つもお願いね。」 だが私は彼女の言葉を遮るように、左手を左右に振ってそれを否定した。 「えっつ、今回はこの左耳の分だけってこと⁉」  私は渡したそのヘッドセットを彼女の耳に取りつけるようにと、ジェスチャーを交えながら出にくい声を振り絞り訴えた。 音楽は間違いなく聴こえている事実を実証したかったからだ。 (これで磯部が思いこんでいる私へのせん妄の疑いを晴らすのである。) 「な~に、これを私の耳につけるの⁉・・左の耳だよね・・こう?」 (私はてっきり拒否されることを前提に頼んでみた。だが以外なことに彼女は凄く協力的だった。  もしかしたら彼女の方こそ、元々ヘッドセットだけでは音楽なんて聞こえていなかったことを私に実証したかったのかも知れない。つまりせん妄に拘っているのかも知れない。) 「そら見なさい、私の言った通り何も聴こえないじゃない! やっぱり高島さんは、オカシイですよ⁉」 (2)
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