二度目の卒業

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二度目の卒業

 教師になって三年目のことだ。  昔から教師になることを夢見て教育学部に入り、死に物狂いで教員採用試験の勉強をして、やっとの思いで教師になれた。  初めての職場は母校の公立高校。本当は中学校勤務を志望していたが、恩師に誘われて母校で働くことになった。一年目は1年生の副担任、二年目は2年生の担任を任され、教師の仕事にも慣れてきた頃だった。  三年目は3年生の副担任を担当することになった。3年生には大学受験があるので担任はベテラン教師に任される。初めて3年生に関わる私には一度、副担任として経験を積んで欲しいそうだ。正直、私は担任ではなかったことに安堵していた。二年目に担任をしてみて分かったが、仕事は忙しいし責任も大きい。やりがいはあるが、まだまだ新米の私には荷が重かった。  担任になったベテラン教師は40代の何度も3年生を担当したことのある方で、私は生徒と談笑しているだけで1年間があっという間に過ぎた。ベテラン教師は生徒との関係も良く、進路も受験も円滑に進め、今日の卒業式だって何事もなく終わった。私より一回りも歳上のベテラン教師の手腕には流石という他なかった。  高校の庭で行われる全体の集合写真も終わり、生徒も教師も解散している。生徒たちはしばらく仲の良いグループで集まって写真撮影や談笑を続けている。私は生徒たちとは少し離れたところで、担任のベテラン教師と一緒にその様子を見守っていた。  「中村(なかむら)先生は3年生の担当は初めてだっけ?どう?手塩に掛けた生徒が卒業していくのを見るのは。」  近くに他の教師の姿はなく、ベテラン教師がこちらを向くことなく話しかけてくる。  「そうですね、これが教師側から見た卒業か、って感じです。ずっと生徒側でしたから。明日から彼らがこの学校にはいないなんて実感わかないです。松尾(まつお)先生はもう見慣れた光景ですか?」  私は松尾先生の方を向いて話す。  「いやいや、生徒の卒業は何度経験しても感動するよ。嬉しいような、寂しいような、なんとも表現しがたい感情だけどね。」  そう言って笑う松尾先生の視線の先には担任をしたクラスの生徒がいる。
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