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少ししんみりした空気になってしまった。私は何かを思い出したかのような演技をして、松尾先生との話を続ける。
「それにしても、彼らの進路は大丈夫でしょうか。進路が確定した生徒もいますが、ほとんどはこれから大学の合格発表ですよね。」
高校の卒業式は3月上旬に行われることが多く、私の務める高校も例外ではない。そして、国公立を狙う人からすると第一志望となる前期日程の大学の合格発表が3月上旬。要は卒業式を終えて、明日なんなら今日にでも合格発表があるということだ。卒業と合格発表が入り混じる3月上旬は3年生にとっては波乱の数日間だろう。
「どんな進路に進むことになっても立派に育ってくれると信じてますが、やっぱり努力は報われて欲しいです。」
私も松尾先生に倣って生徒たちの方を向く。
「……実は先日、卒業式の予行演習を行った日に、前に受験の相談を受けていた生徒から『第一志望に落ちたかもしれない。』と報告を受けたのですが。『頑張ってきたんだから、きっと大丈夫だよ。』とか『大学受験で人生は決まらないから大丈夫。』みたいな気休め程度の言葉しかかけてあげられなくて。なんて言ってあげれば良かったのか、今でもよく分からないんです。」
「……ああ。」
松尾先生の相槌は少し歯切れが悪かった。
「松尾先生だったら、どう答えてましたか?」
私はもう一度松尾先生の方を向いた。
「中村先生の対応は間違ってないよ。試験後の生徒はナイーブになりがちだから、気休めでも励ましてあげることが大事。実際、合格発表なんてただの結果だから、ここまで努力できたってことが彼らの力になっているはずだから。」
松尾先生にしては気の抜けた教科書の1ページ目のような答えに、私は肩透かしを食った。とは言っても、私は松尾先生のどんな答えを期待していたのだろうか。
「そうですね、ありがとうございます。」
私がそう言って、松尾先生との話は事切れた。
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