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「本人はいらないって言ったけど、人間の島にいて裸のままじゃ困るって説得して、おかあさんのワンピースをこっそり持ってきて着せてあげたんだ。
それから何日か、改めてお話を聞いて、事情がわかって。
落ち着いてきたら、今度はきみに会いたいって頼まれたよ」
「俺に……」
「そう。敦くん、ティアーに名前をつけたのはいいけど、
自分の名前教えてあげなかったんでしょ。
それもぼくが教えたんだよ」
思えば依里での俺と狼のティアーの関係は、こっちから一方的に話しかけるだけだったからわざわざ名乗ったりしなかったんだ。
狼相手に自分の名前を嬉々として伝えるのもおかしなことだし……そんないい加減な気持ちで、よく友達なんて思ってたものだ。
「だけど、あの大地震からしばらく、敦くんは元気がないっておにいちゃんが言ってたからさ。
元気になった頃を見計らってティアーをごみ山から連れ出したんだ。
……今さら言ってもしょうがないことだけど、それがまずかったのかも」
それほど深刻ではないが、透はちょっと落ち込むような様子だ。
「ティアーは元気にしてる敦くんを見て、自分のことを忘れてきみが立ち直ったんだと思ったんだよ。
だから、きみに会わないまま、エメラードへ向かうことにした。
忘れられるのは寂しいけど、それで敦くんが元気になれるんなら喜ばしいことなんだ、ってね。
だけど、きみは別にティアーのことを忘れたわけじゃなくって、心の奥底で引きずってた。
そうでないとごみ拾いに精を出したりしないでしょ?」
先手を打たれなければ反論するつもりだったが、確かに。
あまり認めたくないことだが、あの体験がなかったら、部活動で1人きりになってもなお、ごみ拾いに執着する俺はいなかっただろう。
趣味らしいものでもあれば他の部活を選ぶこともあったかもしれないが、あいにくとそういうこだわりもなかった。
家に帰ったら適当にテレビを眺めたりすぐ横になったりと、ぼんやり過ごすばかりなのだった。
「だから、本当は敦くんがティアーのこと忘れたわけじゃなかったって知って、ティアーは嬉しかったんだ。
でもそれが敦くんの足かせになっているのも事実だったから、素直に喜べなくって、複雑な気持ちだったみたいだよ。
ぼくは、あの時すぐにでも敦くんに会せてあげれば、何年も誤解し合うこともなく2人はずっと一緒にいられたかもしれないなー、って思ったんだ」
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