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「そんなの、結果論だろ。
8歳の俺が、狼と思ったら人間……じゃなくて、魔物か。
魔物でしたー、なんて言われて、元通り友達気分で接するかわかったもんじゃない。
さすがに脅えるかもしれないじゃん」
「きみの性格からして、その可能性は低いと思うなー。
第一、それで脅えるなら野生の狼に気安く近寄ったりしないんじゃない?」
「う……まぁ、そうとも考えられるけど」
あれは、狼じゃなくて野良犬だと思ってたっていうのもあるけど、どちらにしてもかみつかれる危険性に違いはないのか。
こうして人づてにティアーのことを聞いていると、俺の知らない彼女の側面の方が遥かに多いのだと思い知らされる。
ティアーに限らず、みんなが裏で俺……ソースのためにあれこれ動いていたんだ。
俺はソースにまつわる因縁の中心にいるらしいけれど、それに関わる全ての人の中で、俺は誰よりも無知なんだと痛感する。
「ぼくがアッキ―に選ばれたのは偶然じゃなくって、エメラードに来たティアーが、アッキ―と知り合った時にぼくのことを話したからなんだよ」
確かに、ありえない偶然だとは思った。
人間の島からエメラードに渡る者ってだけでも砂漠の砂一粒並みの確率だろうに、それがたまたま過去の知り合いだったなんてもはや天文学的な数字になるだろう。
いざ自分のことを話そうとすると、透は空へ視線を固めたままで、こちらを向こうとしない。
これまで笑顔をまじえていたのとも違い、ぼんやりと、とつとつと話し始めた。
「ぼくの、ゴーレムの体がどうやって作られるのかは詳しく聞かない方がいいと思うんだ。
想像したら、気持ち悪くって吐いちゃうかも。
ぼくだって、人間の体だったらきっとそうなると思う。
それだけおぞましいものなんだ。
おおざっぱに言うと、ここの地脈から魔力を、肉体の健康な部分はおとうさんからもらって、身体の中の石版――本当は石じゃないんだけどね、これはちょっと言えないな――これに、ぼくの魂の式をそっくり刻むんだ。これが1番難しいんだよ。
普通、魔術に魂の式を利用するのにも、ごく一部がわかればいいんだけど、少しのズレもなくそっくり刻まないといけないんだから」
前にセレナートの水源まで転送する魔術式を使ったが、あれはセレナートの式のごく一部でしかなかったのか。
それでも初心者の俺には複雑だったけど、魂なんて一晩で覚えられるような、単純なつくりをしているわけがない。
「魔力に記憶が、肉体に感情が宿るって知ってる?
つまりぼくには、ローナの記憶と、おとうさんの気持ちと、それぞれほんのひとかけらだけど受け取ってるんだ。
ローナはこの地脈の一部だからね」
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